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ふみな
「麻雀道」というものがあるならば、彼女は間違いなくそれを歩み続けている求道者だと思う。

最高位戦日本プロ麻雀協会所属、「殉教のヨハンナ」大澤ふみな。尋常ならざる視野の広さと、それを生かした堅固な守備力を誇る打ち手だ。彼女が自身の読みと思考に殉じたかのような鋭いアガリで、難局を打破したシーンは数え上げればキリがない。その佇まいから想起して、僕は実在したとされる女教皇の名を冠したキャッチフレーズをつけさせていただいた。「殉教」とはやや物騒かもしれないけれど、大澤からは己の信念を全うして麻雀道を突き進むという覚悟が感じられる。そんな魅惑的な一面があることは、彼女の対局を一度でも観た方ならば十分にご理解いただけると確信している。

システム

対局者
「麻雀ウォッチ プリンセスリーグ」予選第1節Bブロック1卓の対局者は、いずれも昨年は予選突破という結果を残している実力者ぞろい。とくに大澤は準優勝だ。

「短期戦だから、やっぱり瞬間の手が入らないと突き上げるのは難しい。どちらかというと、まとめるのがうまいタイプだと思っているので、だいたいいつもシルバーコレクターで終わってしまう。一定の評価をいただいたりはするけれど、短期戦は本当に向いてない(笑)」

でも、と大澤は言葉を続ける。

「結局、結果につながらないというのは自分に足りないものがあるのは明確なんですよ。今、自分がレベルいくつなのかわからないけれど、麻雀を始めてから果てしなく続く階段を昇っていくわけじゃないですか。始めた当初は『これをやれば、こうなれる』というのが明らかに目の前に転がっていて、そういうのを階段を踏むたびにいろいろ変えてこれた。今は、ある程度自分の中でフォームが決まってきて、好みが決まってきて、自分の見える範囲もどんどん広がってきた。もっともっと精度を上げるという意味では日々の努力を惜しまないようにしています。だけど、それ以外にも何か自分に明らかに足りないものを探さなければいけなくって。それを人に言われて素直に飲みこめるタイプでもないんですけれど(笑)」

いまだ、道半ば。そう語る大澤は5月13日現在、最高位戦日本プロ麻雀協会・第44期前期C2リーグで2位、第19期女流Aリーグではトップという好成績を残している。「とくに変えたことはない」と自身の対局を振り返ってはいたが、女教皇はこの1年で着実に階段を一つ昇ったということなのだろう。そして、プリンセスリーグの第1節でも――。

3回戦終了時
3戦を打ち終えた段階で、大澤と同じく昨年度ファイナリストの小宮に次いで2位という好位置にいた。かくして始まる第1節最終戦、僕たちは大澤の矜持をまざまざと見せつけられることとなった――。

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大澤は東1局から大きなアドバンテージを得る。イーペーコー確定となるm6を引き入れると、猛然とリーチをかける! ヤミテンでも打点十分ではあるが、メンタンピン・イーペーコー・赤2の跳満確定として他家を押さえつける。

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安達が追いついてs1 s4待ちのリーチ! s4は大澤の現物ではあるが、ここは強気の選択を取った。1年前は守備寄りの選択が目立った安達だが、この日は劇的なモデルチェンジがとにかく印象に残った。

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その追撃をかわし、大澤がツモ! s3でツモりアガり、安達のリーチ棒を含めて13000点の加点に成功する。

大きなリードには違いない。だが、決定打と呼ぶにはまだ先は長い。その険しき道は、まだまだ続く――。

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振り返ってみると、この東2局は大澤にとって非常に大きな試練の一つだったように思う。そのため、この局はかなりのスペースを割いてお届けしたいと思う。

まず、大澤は配牌で4トイツ。

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ここでは打m2とする。トイツ手の成就の可能性、現状トップ目ということを考えると、安易に役牌のz6は切り飛ばしたくない。

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同じく配牌4トイツだったのが水口。ドラはp6だが、ドラ表示牌にp5rが見えていることもあり、打p5とした。

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2巡目、大澤は早くもチートイツの1シャンテンに。一方、水口は――

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z7をアンコにした。s5を切り、スジ牌のs8が鳴きやすいように工夫をこらす。

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大澤はs2がアンコに。p2を残し、打z6とした。下家の水口の河がすでに派手なため、将来的に危険牌となってもおかしくない生牌のz6を先に処理したい。スジ牌のp2の方が、まだ受け駒として優秀そうに見える。

 

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ドラのp6を持ってきた水口はz4と入れ替え。m7を残していることから、メンツ手への意識も十分に残っていることが伺える。

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大澤の元へは、2枚目の赤牌までも押し寄せてきた。大澤と水口、互いの手が徐々に熱を帯びていく。

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同巡、水口はp7を引いて――

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m7切り。メンツ手ならば、フリテンだろうがドラを使って高打点を目指したい。ドラ引きでチートイツのテンパイを果たしたとして、m7よりもp7の方が優秀そうに見える。だが――

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トイトイベースとするならば、ドラには固執しない! p6p7p9p9からのp6切り。緊急避難のテンパイが取れるカンp8の受けが残る。この瞬間のp9の鳴きやすさアップ。将来的な危険度など、さまざまな意図が見える一打だ。

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続いて視点を大澤に戻そう。このs6引きで――

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s9。チートイツは切り捨て、メンツ手の1シャンテンとしつつ、タンヤオ変化も見据えた。

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再び水口。s7を持ってきて、p7と入れ替え。小宮の現物で、s5が2枚見えていることもあり、p7よりs7の方が安全そうだ。

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このp7に大澤が飛びつく! s9を並べてタンヤオ移行を果たす。そして――

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m3を引いてテンパイ! タンヤオ・赤2のカンm4待ちだ。

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一方、水口も小宮からp9をポンしてテンパイ。z7・トイトイのs1s8待ちシャンポンだ。この手のぶつかり合いの結果――

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当たり牌のs8をつかんだのは女教皇・大澤だった――。

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突然だが、ローマ教皇を精神的指導者とするカトリック教会において、信仰の模範とされる「聖人」に認定される条件があることをご存じだろうか? 厳密にはいろいろな条件もあるのだろうが、一般的には「奇跡を2回起こすこと」と言われている。奇跡とは、何か? それは例えば、不治の病を治したり――

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復活を果たすことである。

打点を落とすs5r切りで、当たり牌のs8を完璧に止めてみせたのだった。こうなると、続きを見たくなるではないか。そう――

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奇跡は、二度起こる!

先ほどの跳満ツモと同等か、それ以上の価値に感じられる500-1000のアガリだった。

「もしかしたら勘違いしているかもしれないけれど、水口さんの最終手出しのs7はたまたま安牌として抱えていたものと読んでいて、関連牌だとは思っていないです。水口さんの河は、表示牌のp5切りから入って、m7を先に打ってからのm8ポン出しで、しかもs5を先に並べている。また、p9ポンの前にドラのp6p7と打っていて、これはもうチートイツからトイトイに変化したと思っていたんですよね。だけど、赤ありルールなのにs5が先に切られすぎているのがおかしい。あれは、ソーズの上目を安くするために並べていたんじゃないかなと読みました。最初はマンズに寄せているのかなと考えていたけれど、それはm7先切りからのm8ポンの時点で、ものすごく整っているチンイツくらいしかあり得ない。そう考えると、いよいよ生牌のs8が危ない。だから最終手出しがs7じゃなくて無関係な字牌だったとしても、s8は絶対に止めています。点棒を持っていて打点を追い求めているわけではなかったから。瞬間のテンパイでアガれればラッキーで、変な牌を持ってきたらすぐにでも降りるつもりでいました。なんですぐにs5rを切らなかったかというのも、もう1枚s8を持ってきた時のことを考えていました。p5を切ってテンパイを外し、もう一回ほぐしにかかろうかなという悩みですね」

上記の述懐だが、全ての対局を終えた後に大澤から直接伺った感想だ。当然ながら、映像を見返した上でのコメントではない。全てを見透かしたかのような発言に、僕は驚嘆せずにはいられなかった。いや、畏敬と言い替えた方が適切かもしれない。卓越した技術は、さながら神の御業なのである。

が、やはり同卓者も並々ならぬ傑物ばかり。

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東3局には小宮がz1z5・ホンイツの2000-4000をアガり――

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安達も南2局の親番でリーチ・タンヤオ・ツモ・赤1の4000オールで意地を見せる。

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さらに南3局、今度は水口がリーチ・ツモ・赤・ドラの2000-4000の加点。m1m4m7か、m2m5m8か、待ちが選択できる状況で見事に正解を選び抜いてみせた。

かくして最終戦オーラスは、全員にトップの目が見える絶妙な僅差での対局となった。

まずは牌姿の前に各者の点棒状況を紹介しよう。トップは大澤で28800点、2着は水口で26600点、3着は安達で25600点、ラスは小宮で19000点。

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オーラスのドラはm5。親の水口は、1メンツが完成しており、z6z5がトイツだ。マンズに寄せれば満貫が非常に現実的で、他家に速度を合わせて対応することもできそうだ。

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南家、小宮の配牌もまたすごい! ダブz2がアンコで、2ハンアップとなるm5rも内蔵している。すでに満貫が確定している2シャンテンだ。

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他家に比べると見劣りしてしまう安達の配牌だが、2着目と1000点、トップとは3200点の差だ。1着順アップか、2着順アップか。どちらをチョイスするかが勝負の分かれ目となりそうか?

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最後に大澤の配牌がこちら。2シャンテンだが、ネックのカンs2がどうなるか? 役牌重なりもうれしいので、打m9としている。

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2巡目、安達がz3をツモ切り。このz3は――

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小宮が欲したz3だ! 他家からすると、ラス目の小宮がオタ風のz3ポンをしたということは、ダブz2を絡めたホンイツやトイトイなどをケアするだろうが、そもそも誰も退くはずもない局面だ。それに、誰もここまで整った手牌だとは思うまい。

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続いてホンイツのブロックが足りた水口がs7を切り――

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再び小宮がポン! 電光石火のm3 m6待ち、満貫テンパイを果たした。

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その直後、安達のもとへm3が流れてきた。しかも、m6まで浮いている。繰り返しになるが、ここは退いていられるような局面ではない。3着から2着へのアップは20000点、トップになれば50000点分のポイントが入って来るのだ。

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安達、必然のm3ツモ切り――

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そのm3に、小宮は何も声をかけなかった。安達からアガれば2着順浮上となるアガリだ。その恩恵は百も承知の小宮だが、顔色一つ変えずに気迫のスルーを敢行した。

理由は、ただ一つ。トップ奪取だけを小宮は見据えていた。

この順目の満貫テンパイだ。平均的に見たならば、間違いなく自身の速度が一番早いと感じるだろう。大澤からの直撃か、ツモアガればトップとなる局面で、この見逃しをするメリットはあまりに大きい。加えて、現状トップ目の大澤がプラスポイントというのも判断材料の一つとなりそうだ。自身が一人大きく浮いた状態で第1節を終えられれば、次節以降の対局が非常に楽に試合を運べることとなるだろう。

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そんな小宮の胆力あふれる判断を打ち砕いたのは――

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ここでも大澤だった。ネックのs2を埋め、あれよあれよとp3 p6 p9待ちのピンフテンパイを果たした大澤が、最後も値千金のアガリをものにした。

4回戦終了時
待ち受けていた数々の難所をくぐり抜け、大澤は王女の座へとつながる階段を一つ昇ってみせた。

「負けた方には失礼なのかもしれないけれど、私はネガティブだから、勝っても負けても落ち込むんですよ(笑)。ネガティブなこの私が、自画自賛できるような対局をしたいです」

結果におごることなく、女教皇は求道を続ける。これから彼女が体現するのは奇跡の御業か、技術の結晶か――。いずれにせよ、僕たちは彼女に畏敬の念を抱きつつ、その美技に酔いしれることになるのだろう。

文:新井等(スリアロ九号機)

麻雀ウォッチ プリンセスリーグ2019 予選第1節Bブロック1卓

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