全部勝つ! 女流雀王・逢川恵夢が課した一大ミッション【麻雀ウォッチ プリンセスリーグ2019 予選第1節Bブロック2卓】
日本プロ麻雀協会の女流プロは、恐ろしくレベルが高い。近年、そんな評判をトッププロからも頻繁に聞くようになった。実際、この「麻雀ウォッチ プリンセスリーグ」全24名の出場選手のうち、14名が協会所属だ。もちろん、どの団体にも王女候補にふさわしい実力者がひしめいているのだが、とりわけ協会は層が厚い印象がある。
その日本プロ麻雀協会の最高峰タイトルである女流雀王に君臨しているのが、逢川恵夢だ。2018年度の女流雀王に輝いた彼女だが、それまでは第10期新人王を獲得した以外は目立った実績はなかった。
「昨年に行われた第1回のプリンセスリーグには、ものすごく出たかったんですよ。でも、女流雀王を獲るまでは実績もほとんどなかったし、夢のまた夢だなと思っていました」
女流雀王戴冠の直後、麻雀スリアロチャンネルにて放映された「四神降臨2019女流王座決定戦」に出場した逢川。最高位戦日本プロ麻雀協会、麻将連合、RMU、そして日本プロ麻雀協会の麻雀プロ4団体それぞれの女流最高峰タイトル獲得者と、決定戦出場者を含めた10名による一大決戦に出場し、ここでも優勝を果たしている。すなわち逢川は、今最も勢いに乗っている女流雀士の一人と言って過言ではないほどの結果を残しているのだ。そうして誰にも有無を言わさないほどの実績を引っ提げ、逢川は待望のプリンセスリーグ初出場を果たした。
「予選最終節の第3節は、抽選の結果、前半卓になりました。最終戦で北家を引けなかったくらいのハンディがあると思っているので、もう狙われないというくらい突き抜けたいです」
プリンセスリーグのシステムは各ブロック上位4名(+5位の中で最もポイントの多い選手)が予選を通過できる。序盤に追いつけないほどのリードを築いた場合、他の選手が2位以下に照準を定めるという可能性は十分に見込める。
女流雀王経験者の冨本と佐月、雀王戦Aリーグ経験者で第11回オータムチャンピオンシップ優勝の蔵美里という同門の先輩たちを相手に、逢川の狙いは実を結ぶのか……。
戦いは、1回戦の東1局からバチバチと火花が散る展開となった。まずは逢川がリーチ・赤のペン待ちで先制攻撃を仕掛ける!
さらに冨本もリーチ! ドラ1を含んだ 待ちだ。いきなりの3軒リーチとなった結果――
佐月がをつかんで逢川が勝ち名乗りを受ける。裏ドラがで2枚乗り、いきなりの満貫スタートとなった。
続く東2局、いきなり苦しい失点を喫した佐月だが、待ちのメンホンチートイツをヤミテンに構えた。生牌のを切って、2枚切れので待つ。序盤から豪胆な選択をした。
そんな中、またしても逢川がリーチをかける。高めがドラのこの手で――
有言実行と呼ぶべきペースで、順調に加点を続けていく逢川。が、この連続アガリすら彼女の快進撃の序章に過ぎなかった。
冨本から12300を出アガリ。ソーズが1牌も余っておらず、このシャンポンをケアするのはさすがに難しい。
逢川の快進撃は止まらない。東4局2本場、終局間際にテンパイを果たした彼女は――
3900は4500の加点。
極めつけは東4局3本場。またしてもチャンス手が巡って来た逢川は――
この最終形でリーチ! リーチ・ピンフ・赤・ドラ、高めはイッツーまでつくが――
さも当然とばかりにをツモ! 6300オールのアガリで、冨本と佐月をまとめて箱下に追いやった。
怒涛の3連続アガリでこの半荘のトップをほぼ確実なものとした逢川。次局は満貫の横移動で親落ちとなったが――
再び親番が巡って来たオーラスでは、いわゆる「王様リーチ」でさらに素点を稼ぎにいく。オーラスは蔵と冨本が熾烈な2着争いをしている最中で、自身が着落ちする可能性もかぎりなく低い。逢川にとっては必然の、他家にとっては悪夢のようなこの展開に――
リーチ・一発・、9600のアガリ。最後の最後に、あまりに大きな加点に成功した。
なんと、たった半荘1回で100ポイントオーバーを叩き出してみせた逢川。2着目の冨本でさえ、マイナスポイントスタートという結果である。これだけのリードを築けば、さぞ気持ちは楽になったことだろう。
「いや、100ポイントくらいはすぐにまくられてしまうので、そんなでもなかったです。今日はツイているな、またこの席に座りたいなくらいの気持ちはありましたけど(笑)」
そう逢川が予見していたように、2回戦は冨本が主導権を握る。
東2局、冨本がタンヤオ・三色・赤・ドラをツモ。2000-4000の加点でトップ目に。
逢川からしてみれば、最もポイント差の近かった冨本が大量リードをするという展開は、最も望ましくないものだ。が、この日の逢川の勢いは、衰えることを知らなかった。
南1局、わずか3巡で逢川が待ちのチートイツでリーチをかける。山に2枚眠っていたこの牌を――
しっかりとツモ! さらに裏を2枚乗せて3000-6000成就! 冨本に猛追する。
冨本と11600点差で迎えた南3局、先手を打ったのは蔵だった。ドラと役牌のがトイツのところから、2枚目のをポン! トイトイとバックを見据えたコースへ。4トイツあるためチートイツを視野に入れる打ち手も多いかもしれないが、点差に注目していただきたい。この時点で、蔵は佐月と同点なのだ。プリンセスリーグでは同点で半荘を終えた場合、順位点は分けとなる。この場合、蔵と佐月が▲15ポイントとなる。よって、100点でも佐月より上回りたいという局面なのだ。チートイツでノーテンに終わってしまう可能性を残すより、最悪でもケイテンを取ろうという狙いもあったかもしれない。
この仕掛けを見た逢川は、1シャンテンからを絞って切りとする。逢川としては、リーチ・ツモ・タンヤオに+1ハンをつけた満貫をアガりきれば、冨本に親かぶりさせてトップ目に立つことができる。だが、河を見るとと以外の役牌がすでに切られている状況なのだ。よって、迂闊にこのも切れないのである。
次巡、を引いてテンパイ。リーチしてツモれば満貫だ。テンパったならば、このは勝負に行く価値も出てくるかもしれないが――
逢川はを切ってテンパイを外した。守備派を自負する逢川は、その理由を次のように語った。
「蔵さんのは2鳴きでした。これが1鳴きだったら、がアンコの可能性も高まると思うのですが、2鳴きだったことでがトイツの可能性はだいぶ高まっていると読みました」
仮に蔵がをアンコで持っていたとしよう。親番がなく、2着以上に浮上する可能性がかなり低い蔵が、役が確定している状況で1枚目のをスルーするだろうか? ツモり四暗刻チャンスなどのパターンはあるにせよ、そのくらい整った手でない限りはほぼ確実に1枚目からを鳴くのではないか。逢川は、そう予想したというわけだ。
結果、この局は全員ノーテンに終わる。ポイントに余裕のある逢川と、追い込まれている蔵では、選択できるルートの種類が違う。そんな余裕も手伝って生まれた、逢川の渋いファインプレーだった。
オーラスは佐月が1300-2600は1400-2700をアガり、上記のような結果に。冨本とポイント差を詰められはしたものの、さらにポイントを稼ぐ結果となった。
3回戦に先制攻撃を決めたのは、蔵同様に苦しい展開が続いていた佐月だった。待ちのドラ2チートイツをヤミテンにすると――
を持ってきて待ち変え。自身からが3枚、とがそれぞれ2枚見えている。十分にアガリが拾えそうな待ちだ。
待ち変えをした直後に冨本から6400点を見事に出アガってみせた。
東3局1本場、ラス目の冨本にビッグチャンスが到来する。タンピン・赤2・ドラ1、満貫確定の手を慎重にヤミテンに構える。これに飛び込んだのは――
「あれは完全に甘えた打牌でした。止めようとは思ったんですけどね。佐月さんがオタ風の西からポンしているけれど、冨本さんはドラのを押していた。冨本さんに当たってもおかしくない牌でしたからね。すでにを切っていては使いにくく、マンズにも手をかけにくい。それでも、あれは甘え。反省ですね」
たしかに冨本は1シャンテン以上でおかしくない河をしているが、この時の逢川ほど整った手をもらっていたならば、躊躇なくを切る打ち手は多いと思う。それでもこの放銃を良しとしなかったのは、やはり逢川が守備派たる所以なのだろう。
この放銃で兜の尾を締めたかのように、逢川は反撃モードへと移行していく。
南1局1本場、逢川は淀みない手順でメンタンピン・ドラ1の先制攻撃を仕掛ける。高めは三色だが――
安目のを一発ツモ! 先ほどの失点をすぐさまリカバリーし、一瞬で2着目に立った。そして、この半荘の決め手をアガったのは――
蔵だった。チートイツ・ドラ4のヤミテンを冨本から直撃。12000点の加点に成功すると――
続く南3局にはタンヤオ・赤2のヤミテンを、またしても冨本からアガってみせた。
蔵がこの日初となるトップを飾り、一気に50ポイント以上も負債を返した。一方、オーラスに南・ドラ1の2000点を佐月からアガった逢川は、3回戦を2着で終える。またしてもポイントを伸ばすことに成功した。
ここに来て、当初の目標をほぼ完遂すつつあった逢川。だが、この後の最終戦に、さらなる激動の展開が訪れたのであった――。
東1局、逢川はうれしすぎる引きで、迷うことなくマンズのホンイツへと移行する。次巡――
まさかの縦重なり。僕ならがっかりしてしまいそうなテンパイだが、がアンコのリャンメン待ちなら、リーチをかけるに十分に値する。
3軒リーチを制したのは逢川! ツモって裏ドラもしっかりと乗せ、順調すぎる満貫スタート。
続いて東2局も、逢川が先制リーチを決める。を叩き切っての 待ち。なら三色までつくが、どちらの待ちも非常に吊り出しやすそうだ。が宣言牌ということはと持っているところからの切りがほぼ否定される。そのため、は通常のリーチよりだいぶ出アガリ率が高まる。また、となっているところからの切りとなるパターンも考えにくくなる。無論、表ドラや手役が絡んでいるケースはその類ではないのだが、今回のドラはだし、が3枚見えていることから789の三色に対する警戒度も下がる。前に出てくる打ち手は、もも相当止めにくそうだなどと思っていたら――
逢川自らをツモ! 前局に続いて、またしても満貫をものにしてみせたのだった。
そうして迎えた逢川の親番、1メンツが完成しており赤が1枚内蔵され、456の三色ができる可能性もあるチャンス手が巡って来た。このアガリが決まれば、早くも4回戦の趨勢が決まってしまいそうだ。
5巡目、佐月の手牌。トータルラス目の彼女としては、少しでも負債を返上したい。だが、赤もなければドラもない。イッツーや三色にほのかな可能性を見出そうかという手牌で――
カン固定となる切りを選択。前述のように789の三色やイッツー、果てはピンズの染め手などを意識しつつ、逢川の4巡目切り、蔵の4巡目切りを見て、が山にいそうだと狙いを定めた思考もありそうだ。
限られた材料でなんとか手を作ろうという佐月に対し、逢川には芳醇な程の手が押し寄せてくる。その結果――
佐月が先制リーチを放った。結果的にはリーチのみ。だが、このカンは佐月が当初から狙いを絞っていた待ちだ。2枚目のが切られた直後だったのだが、彼女はノータイムでを横に曲げていた。
このリーチを受けた逢川は、を持ってきて逡巡する。はスジ牌なのだが、宣言牌がというところが肝だ。からの切りというパターンは往々にしてあり、シャンポン待ちと仮定した場合にもう片方のトイツがドラのという可能性だってあるかもしれない。
だが、自身の手はタンピン・三色・赤2の1シャンテン。倍満ツモの可能性さえ見えるこの手ならば、押すに足りると判断してをツモ切った。
さらにピンズが伸びて、再び選択の時。自身の都合だけを考えるならば切り一択だが――
逢川は打とする。ソーズの いずれも佐月に無筋で、そう簡単に切れる牌ではない。最高値である456三色とイーペーコーを作るためにはとの2スジを押さねばならず、いくら親番とはいえ、終盤で、トータルで大きくプラスの身でそこまでの冒険は割に合わないと判断したのだろう。
テンパイ逃しとなる、痛恨の引き! いや、この引きを痛恨と呼ぶのは、さすがに語弊があるか。約130ポイントある逢川が、ここからリスクを負わない選択を取るのは至極まっとうだ。佐月、渾身のリーチは
500-1000のツモアガリという結末を迎えた。ここに来て、佐月が逢川の進軍を阻止してみせた。
南1局1本場、現状ラス目の冨本がチートイツの待ちでリーチをかける。
これに追いついたのは、またしても逢川。だが、ここでは慎重にピンフのみのヤミテンに構える。
を持ってきたところで安牌の切り。役なしのシャンポンに構える。結果的に放銃牌ではなかったが、ヤミテンにしたことがここで生きた。
さらに今度はを引き、フリテンのカンに構える。あくまでリスクを負わずに取り続けた役なしテンパイ。それは――
このような僥倖のアガリを逃さないために取っていたものだ! 300-500は400-600。冨本ががっくりとうなだれたのが、じつに印象深かった。
最終戦も、徐々に決着の時が近づく。南3局、ドラ。冨本にはドラ2・赤1の好機が到来した。
逢川は親番ではあるが、この牌姿から冨本が放ったをスルーしている。アガリに向かうだけであるならばを鳴きそうだが、いかんせんこの点棒状況だ。無暗に安手で連荘をしても、他家に親かぶりのチャンスを与えるだけだ。迂闊に安牌候補を減らすのも忍びない。逢川らしい守備的な思考が伺える。
ダブアンコの蔵がを捨てたが、これにも逢川は声をかけなかった。
6巡目、蔵はここから打とする。ドラ受けを拒否して、ソーズのホンイツやトイトイを見据えた高打点を狙った手組にした。
一方、冨本はドラのがアンコに。跳満が現実的な手格好で、これをものにすれば一気に2着順浮上となる。
再び蔵のターン。ここで2つ目のアンコとなる引き! 傍から見守っていてい、一気に卓内が熱を帯びていくような感覚にとらわれた。
そんな煮詰まった局面で、逢川もまた1シャンテンに。に続き、2枚切れのもトイツ落とし。
逢川がリーチ! リーチ・ドラ・赤の 待ち。はスジ牌で、1巡目にを切っていたことでを吊り出しやすい。先ほども出アガリを非常に期待できる 待ちリーチの話をしたが――
そんな河作りとは無縁のツモを繰り返すのが、この日の逢川の仕上がり具合だった。他家のチャンス手を打ち砕く4000オールで、リードをさらに広げていく。
続く南3局1本場、逢川はリャンメンのチーテンからドラのをツモ。早々にを仕掛けていた蔵の速度に合わせるような鳴きで、貪欲に1100オールをもぎ取っていく。先ほど、安手での連荘は他家にチャンスを与える可能性があると述べたが、今回は緊急避難的な意味合いも強いアガリだった。そして何より、この日の逢川は――
親番を続けていればいくらでもチャンスが巡ってきた! この鬼のような好配牌から――
もう、この日何度目かわからないリーチを敢行! リーチ・タンヤオ・赤・ドラの 待ち。打点も、待ちも、速度も、何もかもがS級だ。そして――
をツモって4200オールの追加点。この手が満貫止まりになったことが、他家にとってせめてもの幸運だったのではないかと思うほど、この日の逢川は神がかっていた。
4戦を打ち終えてのスコアは、驚愕の212.7ポイント。成績は1-2-2-1だったが、2度のデカトップが手伝い、4連勝でも成し得ないほどの大量リードを手にしてみせたのだった。
「もともと負けん気が強い方なので。自分が女流雀王でもなかったとして も、全部勝ちたいくらいの気持ちはつねに持っています。去年の12月から、決勝には5回残りました。うち2回は勝てましたが、それ以外は2着、3着、4着と成績が落ちているんですよ。だから最近は、タイトルを獲れたことの喜びより、そうやって負けていった悔しさの方が大きかったくらいです。プリンセスでも、全部勝ちたいです」
有言実行の大勝を飾った逢川だが、最終目標にはまだまだ遠い。自らに課した一大ミッションを達成するためにも、彼女はまだまだ攻めることを止めないのだろう。
文:新井等(スリアロ九号機)
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