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2020年の麻雀界の王女の座を巡り集った、才色兼備の女流雀士たちの戦い。その美しくも激しい彼女たちの闘牌は――

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時に切なさも交えながら、いよいよ最後の時を迎えた。

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Princess of the year 2020。その決勝の舞台に立ったのは石井あや、小宮悠、冨本智美、三添りんの4名。元女流最高位の石井、元女流雀王の冨本といった歴戦の猛者とは対を成すかのように、ノンタイトルの三添、出場選手の中で最もキャリアが浅い小宮が相対する構図となった。決勝の経験が豊富な石井や冨本が上回るか、三添や小宮の勢いが牙城を砕くか。ティアラを巡る戦いの火ぶたが、ここに切って落とされた。

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1回戦、まずアドバンテージを握ったのは石井だった。親番となった東2局、ドラ単騎のヤミテン満貫に構え、テンパイしている三添からこぼれたp4を捕らえて12000の加点に成功。いきなり「沈黙のスナイパー」の異名にふさわしいアガリが炸裂した。

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続いて次局、ダブz1z7を仕掛けてドラ1の手をテンパイし、リーチをしている三添から12300の和了。たった2局で大きく抜け出すことに成功した。

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それでもなお、石井の勢いは留まるところを知らない。z5z2をポンし、赤1のカンs6テンパイが入った。

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これに小宮が待ったをかけた。チャンタやホンイツが見えるz1・ドラ2のこの手。p3は自身から2枚見えだが、ビッグパンチ狙いのカンm2払いを選択した。

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m2を持ってきて少し首をかしげた小宮だが、m2の場況がいいのは織り込み済み。承知の上でこのルートを歩んだのだ。

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などと思っていたら、ここで伏兵登場! 冨本からz6・高めイーペーコーのリーチが放たれた。そして――

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このリーチに石井が無筋を切り飛ばしていく! 現物のp3を始め、ピンズは軒並み安全そうではあるが、ここで踏み込むのが石井の決勝バランスといったところか。

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その間隙を縫って、小宮にも待望のテンパイが入った。石井が切ったm4のスジであるm1がテンパイ打牌。ひっそりと目立たず、メンホン・z1・イーペーコー・ドラ2のペンp3待ち。出アガリ跳満、ツモれば倍満の鬼手がここに完成した。p3は冨本の河と石井の手に1枚。山に残るは1枚。もしも石井がどこかで撤退を決めたら、おきて破りの「沈黙のスナイパー」返しが爆誕だ。もしも石井が放銃するようなことがあったなら、YouTubeのスリアロ名場面集に即刻アップロードしてそんなタイトルにしよう。などと思っていたら――

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最後のp3が冨本の元を訪れた!

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この12600のアガリで、小宮は一気に石井を射程圏内に捕らえた。その後も両者は軽快に加点を続け――

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冨本は箱下、三添も箱下寸前にまで追いやられていた。それでもスナイパーの追撃は止まらない。南2局、この日初のリーチに踏み切ると――

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当然でしょ? と言わんばかりの一発ツモ! ダメ押しの4000オールを決めて、とうとう小宮を振り切った。

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オーラスには冨本がメンタンピン・ツモ・ドラの2000-4000をアガって意地を見せたことで――

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たった一戦で石井が78.3ポイントも獲得。ラスの三添とは136.4ポイントも差がついてしまった。

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ここでラスを引くようなことがあると、いきなり追い込まれてしまう展開になった三添。2回戦は開局から3連続アガリを決め、負債の返済に努めた。東2局1本場には、タンヤオ・ドラ2・赤の親満を冨本からアガり、なんとか安全圏へとたどり着くことができた。

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手痛い失点を喫した冨本だが、東3局には小宮とのめくり合いを制して12000の直撃に成功。彼女もどうにか踏み止まっている。

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こうしてオーラスを迎えた2回戦、トータルラス目の三添がトップで自身が2着目なら及第点と、石井は軽快にz5をポン。局を終わらせるため、スピード重視の仕掛けをしていく。

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石井の意図を敏感に察知し、冨本も速度を合わせるためp1のリャンメンチーから前へ出る。跳満をツモれば2着浮上だが、そんな悠長な時間はない。それよりもこの手で鳴き三色を無理やり作り、200点差の小宮をまくる方が現実的だと判断したか。

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そうしている間に石井に電光石火のテンパイが入った。z5・ドラ1の高めチャンタ。受け駒のz3が搭載されている点も心憎い。

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が、ここで小宮も追いついた! メンピンのs2 s5待ち。リーチをかければ石井は無理に押してくることはない。どのみちツモられた瞬間、ほぼ間違いなくラス目に転落、よくて同点3着だ。ここは瞬間ラス目に転落したとしても、リーチをかけるメリットが大きそうだ。

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その目論見通り、石井は降りてくれた。ひとまずの狙いは成功したが、このリーチは同時にデメリットもはらんでいる。それが――

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冨本にテンパイが入ったパターンだ。Princess of the yearはアガリ連荘のため、冨本と小宮がテンパイしたまま流局ならば、800点差で冨本が3着になる(供託は半荘トップ者の元へ入る)。ラスと3着の順位点差は10ポイントだが、今の冨本はその10ポイントでさえ取りこぼしたくない状況だ。故に、ここはドラだろうとお構いなしに切り飛ばした! 残るは1巡、冨本の覚悟が小宮を――

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上回るかに思われた。海底ツモに眠っていたのは、小宮の当たり牌であるs5だった。

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土壇場で劇的すぎる5800が生まれ、2回戦はエクストララウンドへと突入した。

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トータル2着目の小宮が背中にぴったりと張り付いている状況は、さすがに歓迎できない。z7をポンした石井は――

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立て続けにm9もポン! 遮二無二前へと出ていく。

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p2がアンコになると、安牌候補のz1も叩き切る。ノーガード戦法の1シャンテンに構えた。

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高所での綱渡りを強いられるかのような、カンs5チーからのp6単騎。まだ不安定ではあるが――

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このp3 p4待ちならゴールへとたどり着けそうだ。かくして――

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まさに死守と呼ぶにふさわしい400-700は500-800を和了。勝負所で勇気を振り絞って前へと出た結果――

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石井がさらに後続を突き放すポイント状況に。残るは2戦。こうなると、他3者に共通見解が生まれる。石井を止めなければ、勝負が決まってしまう。そんな正念場の3回戦は――

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三添の1300-2600、小宮の一人テンパイと続いて迎えた東3局1本場、冨本が秀逸な判断を見せる。234の三色まで見える赤1の1シャンテンという好機が訪れ――

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このm5引きで、345の可能性も出てきた!

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そして絶好のm4引きでテンパイ! 234か345、どちらの三色を見るかという局面だが、冨本はm2ノータイム切りのヤミテンを選択した。場をよく見ると、石井が3枚目のp2を放ったばかり。アガリ目はほぼp5ということで345に狙いを絞り、なおかつタンピン・三色・赤ならばヤミテンで十分な打点があるといったところか。その狙いすました一撃は――

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見事に石井を捕らえた!

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冨本に限らず、三添も小宮もうれしい12000点。これで石井は暫定ラス目へと引きずり落とされ――

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そのままオーラスを迎えることに。冨本は1巡目から自風のz4をポンし、愚形メンツ残りとはいえ早々に1シャンテンとなった。

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小宮もz5がアンコになり、スピードだけではなく着アップの可能性が見える。

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6巡目には三暗刻の可能性まで訪れた! 跳満ならば一気にトップまで躍り出る。そんなチャンス手をもらった大事な局面、小宮の元に――

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じつに難解なp6が訪れた。

p9引きとかm1 m4引きのテンパイだったら、出アガリ2着を目指せばよくて簡単じゃないですか。でも、一番難しいp6を引いて悩みました」

p8s6を雀頭にして、リーチ・z5の3200にすれば、最もアガリが拾えそうだ。だが三暗刻は崩れ、トップ浮上はほぼ望めない。かといって大振りにすると、石井がラス抜けするリスクを負ってしまう。悩みに悩んで、小宮はm2単騎のヤミテンを選択した。

「待ち頃の単騎でリーチを打とうと決めていて、ひとまず場況もそこそこ良いm2待ちに取りました。うっかりツモは自分が2着で冨本さんがトップ。それは並び的にも全然いいと思っていたんですけど……」

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直後、石井がs8をポンして、タンヤオ・ドラのテンパイを入れた。待ちはカンm3。仮に小宮がm3単騎にしていたら、次の待ち変えで放銃に回っていたかもしれない。小宮は難しい選択から、見事に正解を選び抜いた。

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そう思われた! まさかのm3引きで、痛恨の2900放銃となってしまった。m1 m4待ちでも、m2待ちでもたどり着いてしまうこの結末。後の危険度を加味すれば、小宮がm2を残したのは必然だ。だが、それがあまりにも皮肉な結果を生んでしまった。

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「なんでこんなに噛み合わないんだろうと思ったけど、2900が不幸中の幸いというか、まだ自分がアガれば良かった。また、あやさんをラスにしなければ、みんなやることがなくなってしまうかもしれないと思っていました」

そう、結果は最悪だったが、まだ逆転の目は残されている。そう思いながら手牌を開くと――

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極上の景色が広がっていた。ドラがトイツで、マックスでソーズのチンイツにまで育ちそうだ。イーペーコー・ドラ2やイッツー・ドラ2の可能性もあるため、p5は残しておく。

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カンs8をチーしてp5に別れを告げた。ここで染め手一本に照準を合わせた。

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カンs2を仕掛けて1シャンテンに。ネックから首尾よく鳴けて、じつに順風満帆だ。

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ここで冨本にもテンパイが入る。s4s6の役なしシャンポン。トップ目の彼女としては、この手で極力リスクは冒したくない。当然のヤミテン選択だが、うっかりツモれば小宮の好機は霧散してしまう。

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さらに石井にもテンパイが! z6・ドラ赤のカンs4待ち。小宮に残された時間は、あまりに少ない。

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が、ここで小宮待望のテンパイ! 絶好すぎるs6を引き入れ、s1 s4 s7の3メンチャンに。s7ならイッツーもついて倍満だ。

「あやさん、冨本さんからは何でもアガる、三添さんからのs1 s4は見逃そうと思っていました。自分が12ポイントを加点して、かつ2着にもなれる。自分のポイント的にはすごくうれしいんですけど、あやさんにラスを押しつけるっていうのはメンタル的にも絶対に焦りが出ると思ったし、とにもかくにもツモれば自分がトップで、めちゃくちゃいい並びで最終戦を迎えられるので」

はたして鬼が出るか、蛇が出るか――

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さらに終盤になって、s5を引くと、s2 s5 s8待ちへとシフトチェンジ。倍満の可能性はs5r引きだけになってしまうが、ポイントは直前に石井が切っているs8だ。これを仕掛けていない分、他家からはやや盲点になりやすい待ちになっている。ほぼ小宮がテンパっているように見えるこの状況で、石井も簡単に降りることはできないだろう。それに、三添からピンポイントでs7が放たれるケースなどそうそうあるまい。そんなレアケースに対応するよりも、石井や冨本からわずかでもアガリやすい可能性にかけた選択だった。

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そう、三添にこんな手が入っていると想像する方が無理な話なのだ。s7を切ればメンタンピン・ドラのテンパイ。ツモれば自身がトップへ浮上でき、なおかつ親かぶりで石井をラスへと沈められる。だが、飛び出すs7は超危険牌。実際、直前まで小宮に当たる牌だった。三添は思考に沈む。この手で勝負に行っていいのか? 残り巡目も少ないことを考えれば、降りる選択肢もあるのか? リーチをかけたとして、どこからでもアガるのか? 彼女は覚悟を決め――

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s7を河に放った――

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普段は何があっても表情を崩さない小宮も、さすがに目を剥いた。私は、あのs7を捕らえる未来にたどり着くことはできたのか? そう思わずにはいられないだろう。

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ドラマは終わらない。三添のリーチの一発目、石井がいきなりp2をつかんでしまう。そして石井も考える。小宮がテンパイしていないと考えるのは、さすがに楽観的が過ぎるだろう。さらに彼女がリーチに降りる道理もない。ならば自身はどうか? ノーテン流局ならば、まずラス落ちだ。p9を切って迂回? いや、この形、この巡目での雀頭落としは、ほぼ復活することがないだろう。p1が4枚、p2が2枚、p3が1枚見えていて、p2くっつきに期待するのは難しい。それに三添の河が強すぎて、まだまだ当たり牌の候補が多すぎる。ならば――

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押しの一手!

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かくして衝撃的な満貫アガリを三添がものにして――

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このようなポイント状況に。Princess of the yearの順位点は10‐20+オカ。残り1戦で全員に優勝の目が残る接戦となった。

「ここまでの展開も、今の自分にできるベストを尽くしているはずだから、めくり合いに負けるのは仕方ないと思っています。でも3回戦目のオーラスは、本当にクラッとなりました」

小宮にとってはめまいがしそうな展開ではあったが、石井がラス落ちしたことで全員が踏みとどまれた。泣いても笑っても、残るはあと1半荘。王女を決める最後の戦いは――

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東1局、石井がいきなり2600オールのアガリを決めた。他家と10400点差がつくこのアガリ、状況を鑑みればあまりに価値が大きい。誰しも石井を沈めたいのに、早々に安全圏へ抜けだした格好だ。

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だが、まだ東1局だ。降伏には、まだ早い。三添がメンタンピン・高め三色のリーチで先制すると――

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小宮もメンピン・ドラ赤で応戦。石井への挑戦権をかけたかのような戦い。このめくり合いは――

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小宮に軍配が上がった! しかもうれしすぎる裏ドラまで乗せて、3100-6100を和了。一撃でトップ目へと躍り出た。

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続いて冨本にも大チャンスが訪れた。z6をポンして、手の内にはz5がトイツにz7が1枚。マックス大三元の仕掛けを入れると――

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s3もポン! 大三元、そしてホンイツへのルートは残されている。

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z7も重なった!

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奇跡を信じ、ドラのリャンメンターツを払っていった。

一次予選の最終戦オーラス、冨本は絶望的な状況から役満・国士無双を成就させ、次のステージへと勝ち進んだ。この日、彼女は一次予選の際に着ていたのと同じワンピースを身にまとっていた。ゲン担ぎでも何でもいい。この手が成就すれば、奇跡がもう一度起これば、鳳凰の花嫁は復活を果たす。そして――

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s6! 役満は崩れた。だが、ホンイツ・トイトイ・小三元、24000点の超勝負手がここに来てテンパイした。祈りをこめるように、冨本はドラのm5を河に置く。親が、ドラのリャンメンターツを払った。他家は間違いなく、一体何事かと思うはず。緊急警報が頭の中でかき鳴らされそうだ。

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けれど、そんな状況だからこそ立ち止まれない者もいる。リーチ・ドラ赤のカンm4リーチで三添が勝負を仕掛ける。自身から2枚見え。だが石井と小宮に先行され、おそらく本手の冨本のアガリを許せば、自身の勝ち目はここで潰えてしまうかもしれない。まさに決死行。玉砕上等のバンザイアタックなのか? いいや、彼女は言った。勝って、世界を変えるのだと。

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ならば、これは彼女の革命宣言! 力強く一発でツモりアガって2000‐4000を成就。3回戦オーラスに続き、思い切って前に出た結果、最高の結果へとたどり着いた。一方――

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最大の好機を逸した冨本は、さすがに動揺を隠しきれないでいた。

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東3局、小宮に12000の放銃を許し、冨本はトップ戦線から大きく後退してしまった。

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一方、先ほどのアガリで石井をまくってトップ目へと立った小宮は、追撃のリーチを放つ。まだトータルポイントでは負けている。石井とトップ3着ならば24100点差をつければポイントで上回るが、石井が2着に立った途端にあと20000点稼がなければいけなくなる。三添ともトップ2着で10800点が必要だ。まだまだ稼ぎ足りない。

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このリーチに冨本が切りこむ! リーチ・z4s2 s5待ち。これがリーチのみだろうと、今の冨本は前に出なければならない。これ以上の失点を防ぎ、残る局をひたすらアガリ続けるくらいでなければ、逆転の目はないだろう。

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z4を暗カンし、新ドラのp8も乗った。再浮上するには、本手に化けたこれをアガりきれば――

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が、小宮がその野望を打ち砕く! メンピン・ツモ・赤・裏の4100オール。これで小宮はトータルトップに躍り出た。石井が三添をまくって2着になっても、ほぼ並びといった状況にまで持ち込んだ。

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冨本と三添の2人テンパイを挟んで迎えた東4局3本場、石井としてはここで親の三添に加点されるのは絶対に避けたい。そしてできれば親かぶりをさせて、2着をキープしやすいポジションを目指したい。p2をポンして、目指すはピンズのホンイツだ。

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この仕掛けを見た小宮は、なんとここから役牌を絞り始めた。

「ピンズと字牌であやさんに打つと高いと感じていました。p1 p2 p2の形を残していて、先に s4m7といった使いやすそうな中張牌を切っている。これはタンヤオとかではなく、トイトイやホンイツだろうと思っていました」

そのものズバリといった思考で、石井の進行を遅らせる小宮。役牌を絞った狙いは、他にもあった。

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それは三添が加点する可能性を増やすことだ。三添と石井は微差で、いつ着順が変わってもおかしくない。小宮視点、三添との素点差も必要なため差し込みなどはできないが、三添が程良い打点の手をアガってくれれば、この後の戦いはぐっと楽になる。三添のメンピンを受け――

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石井はまだ1シャンテン。これでは迂闊に勝負にはいけない。そして石井が欲している役牌の一つである――

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z5を抱えたまま、小宮に赤ドラの役なしテンパイが入っていた。もちろん、ここは慎重にヤミテンを選択。自身の読みに殉じてz5を絞らなければたどり着けないテンパイ。そして――

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ものにできない会心のアガリだった。1300‐2300のアガリで難局を切り抜け、親かぶりも小さいため三添は2着のまま。小宮にとって、この上ない展開だった。

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南1局の石井の親番では、三添がピンフ・赤2・ドラをツモ。三添と石井の点差が離れ、ますます小宮に追い風が吹く展開となった。

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南3局、とはいえ石井も満貫クラスを一回でもツモれば優勝条件を満たす位置についている。この赤・ドラ2の手が成就すれば、もう誰が勝つのか全くわからない。

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カンm4を引き入れ、赤が使い切れる形に。ぐっと手が引き締まった。

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そんなこととは露知らず、小宮はこの直後に三添から放たれるz5をスルー。安手をアガって連荘しても、他家にチャンスを与えるだけと判断した。受け駒も消耗したくない局面のため、理に適ったスルーではあるが――

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ここで石井に本手が入るのだから、麻雀は恐ろしい! 精密射撃のようなヤミテンを駆使して「沈黙のスナイパー」と謳われるようになった石井。そんな彼女が、ここにきて伝家の宝刀であるリーチを選択した。ここで跳満をツモれば、小宮と23400点差の2着目になれる。オーラスの小宮は倍満ツモか、石井や三添から満貫クラスの手をアガらねばならず、一気に条件が厳しくなる。

安全圏から狙撃するだけではない。時に危険を冒してでも、近接戦で勝利をもぎ取るスナイパー。それが石井の流儀だ。

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そんな石井に、三添が待ったをかける! メンピン・赤、高めタンヤオの手を思い切ってぶつけ――

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一発ツモ! 渾身の跳満を炸裂させ、革命家がスナイパーのライフルをへし折った。

これにより、オーラスは小宮と三添のほぼ一騎打ちの様相を呈する。現状、小宮がわずか2.2ポイントをリード。王女を決める最終局面――

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まずは三添が仕掛ける! 思い切ってカンp8をチー! 冨本が役満、石井が倍満の手を目指す特殊状況で、字牌が出てくることはなかなかに期待しにくい。とはいえ、この仕掛けで上家の小宮にプレッシャーをかけられるメリットも大きい。

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とはいえ小宮も1シャンテン。この手をアガれば優勝なのだ。だが、三添と同じく役牌がネックになりかねない。

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そんな小宮を置き去りにするかのように、s3をチーしてz6バックのテンパイ。もはやタンヤオ移行や三色への移行も叶わない。退路を断った仕掛けは――

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最後のz6を掘り当てる結果を生んだ。赤1の1000オールで、三添はトータルトップに。その差、わずかに1.8ポイント……!

箱下ラスから始まった決勝戦。三添は、この日、初めてトータルトップに立った。強気な選択が功を奏し、彼女でなければ物にできなかったようなアガリが何度あったことだろう? それが実を結び、ついにここまでたどり着いた。プロになって13年、初めて訪れたビッグタイトル奪取のチャンス。革命家は、世界をほぼ手中に収めつつあった。だが――

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その重圧が、彼女を蝕んだ。

5巡目、ピンフのみの1500は1800を石井から和了。当然ながらアガリ止めはないため、これだけではゲームは決着しない。小宮のツモ条件が300‐500から500‐1000に変わるだけで、次局が格段に戦いやすくなるわけでもない。メンピンツモの1300は1500オールをツモって7800点差、あるいはメンピンツモ裏の2600は2800オールをツモっての13000点差ともなれば、優勝確率は一気に跳ね上がる。さらに流局しても自身が優勝ということを加味すると、ここはリーチを選択した際のメリットが大きかったように思う。

とはいえ、これまで何度も勇気を振り絞った三添の選択に、僕らは酔いしれさせてもらった。そんな彼女でなければ、この天王山に立つことはできなかっただろう。運命を、人生を左右する岐路に立たされた瞬間に垣間見えた、革命家の人間らしさ。そんな姿さえ、いとおしく思えた。

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かくして首の皮1枚つながった小宮は、6巡目にテンパイを果たした。三添から1300を直撃するか、500‐1000をツモれば逆転優勝。だがこの特殊な場況、得意とする山読みの精度はさすがに落ちざるを得ない。ドラのs9は、リーチをしたら誰の手からも出ないだろう。s6は3枚、m4は2枚、自身で使っている。それでも変則3メンチャンか? s6が3枚見えということを生かして、カンs7や、m4s8のシャンポンにかけるか? あるいはテンパイを外して手代わりを待つのか? あらゆる思考・可能性が、小宮の頭を巡る、巡る。そして彼女は選択する。運命を、人生を委ねるに値する一打を――

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「リーチ」

かすかに震えるその声が、場の緊張感をさらに高めた。小宮はs8を切って、s6 s9 m4の変則3メンチャンを選択!

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さっきと同じ轍は踏まないとばかりに、三添は1シャンテンからp5rを切り飛ばす! もう退いてなどいられない。心を整えた三添は、再び革命家モードへと入りこんでいた。そして――

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「ツモ。500‐1000は700‐1200」

そう申告する彼女の声は、かすれていた。

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今にも爆発しそうな感情の渦を抑え込み、最後まで麻雀プロとして凛とした佇まいを貫く。そんな声に聞こえた。

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小宮がこの舞台に初出場したのが、2年前の第1回大会。プロ入り3年のノンタイトル選手ながら、当時から評価されていた実力と将来性を買われて大抜擢をされた。1年目は決勝進出、2年目は準決勝進出。並み居る強豪を抑えてこれだけの結果を残しはしたが、それでも負けたことには変わりがなかった。だからこそ、彼女は戦い続けた。対局後に話を聞くと事細かに牌姿を覚えていて、誰彼構わず質問を繰り返す。そんな愛すべき求道者は、ついに頂点へとたどり着いたのだった。

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「タイトルが取れるっていうこと自体が奇跡みたいな可能性だと思っているので、あまり実感がないんです。今年は合計28人がPrincess of the yearに出場したわけですが、今年は私以外のみなさんが、私が過去2年の大会で経験したような思いを味わったと思うんです。だから、自分が一番になったっていうことが、みなさんにとって恥ずかしい結果にならないように、これからももっと麻雀を勉強して強くなりたいし、麻雀界に貢献できるようになりたいと思っています」

興奮冷めやらぬ中、そう言葉を紡いだ小宮。美しさと激しさを携えて、誰かが味わった切なささえも抱きしめて――。新たに生まれた王女は、これからも戦い続ける。

:新井等(スリアロ九号機)

Princess of the year2020決勝
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