シンデレラリーグ

予選第2節Bブロック1卓

なるか、奇跡の役満!? 人智の限界を目指した篠原冴美と田渕百恵【予選第2節Bブロック1卓】


これは、試練だ。刺激的で、残酷で、どこか切なささえ感じさせる試練だ――。


「麻雀ウォッチ シンデレラリーグ2020」の予選B卓も、ついに最終戦を迎えることとなった。この日行われた前半卓にはトータル8位の篠原冴美、トータル7位の夏目智依、トータル5位の田渕百恵、そしてトータル首位をひた走る与那城葵が対決することとなった。5位以内が予選通過を果たせるシステムで、この組み合わせ。おそらく、全員が勝ち上がることはないだろう。誰かが、ほぼ確実にここで姿を消す。そんなサバイバル戦だが、篠原、夏目、与那城にとっては比較的ありがたい組み合わせだったかもしれない。唯一、田渕にとっては非常に戦いにくい顔ぶれだったことだろう。

大きくマイナスしている篠原や夏目にとっては、自身が普通にポイントをプラスするだけで、ボーダーの田渕を沈めて5位以内に食い込める可能性が高い。与那城も下位の選手と当たることで、無理に狙われることもなく伸び伸びと打てそうだ。一方の田渕はというと、予選首位通過も不可能ではないポジションではあるものの、篠原と夏目の標的になりやすいということを考えると、どこで折り合いをつけるのか悩ましいシーンが増えそうだ。

そんな組み合わせの妙が、果たしてどのようなドラマを生み出すのか――。

1回戦、まず抜け出したのは夏目だった。対局の2日前に誕生日を迎えた彼女は、親番で先制のカン待ちリーチをかけた。宣言牌がのいわゆる「モロヒ」の形に篠原が一発で打ち込むと、裏が3枚! なんとも劇的なバースデー12000で対局の幕は上がった。

バースデー効果(?)は、こんなものでは終わらない。東2局1本場、高めのをツモって、さらに裏も1枚乗せて2100-4100の加点!

東4局には田渕から8000――

南1局には与那城から18000をアガり、全員から満貫以上を直撃して70000点オーバーの大台に突入した。この結果――

夏目は1回戦を終えた時点で負債を全て返済! 怒涛のアガリ攻勢で、一気にトータル5位にまで浮上した。篠原と田渕も苦しいポジションではあるが、上下のポイント差はぐっと縮まった。まだ、ここから。彼女たちもそう思ったことだろうが――

続く2回戦は与那城が意地のトップ奪取を成し遂げた。田渕は素点が大きくマイナスした3着を引き、是が非でもトップが欲しい篠原も2着に終わった。さながら、魔法が解ける12時が刻一刻と迫っているかのような、もどかしさ。残るは後半2戦。そこに魔法はあるのか――

あった。魔法は、まだ解けない! 3回戦開局早々、親番の篠原のもとへ訪れた極上の配牌。もしも、もしもこの大三元がくっきり見えるチャンス手が実れば、篠原の予選通過は一気に現実的になるだろう。

次巡にはダブを重ね、あっという間に5ブロックが完成。安目でもダブ、ホンイツ、小三元で親倍だ。

首尾よくをポンし、これで2シャンテンに。

だが、与那城が早い! しかもタンヤオ・イーペーコー・赤2・ドラと打点も申し分ない。テンパイ打牌でを切ると――

もちろん篠原はポン! 一気に場に緊張が走る。

終盤に差し掛かったところで、与那城はのシャンポンに受け変えた。リャンメン待ちにも取れる引きだったが、篠原の派手な河にはピンズがしか切られておらず、自身のポイント状況的にも無理をする必要はない。ここは現物のを切ってテンパイをキープした。その直後――

を入れ替えていた篠原のもとへ、2枚目のが訪れた。篠原は切りを選択! シンデレラリーグでは純粋な複合の役満のみ、ダブル役満、トリプル役満が認められている。すなわち親の大三元・字一色が成就すれば96000点。トップがほぼ確実になることも踏まえると、順位点込みで136ポイント相当のアガリとなり、予選通過は決定的と言っていい。だが、惜しむらくはこのは2枚切れなのだ……。

「一瞬、ダブル役満がよぎったんですけど、は2枚切れなんですよね。余計なことを考え過ぎてしまったかもしれません」

篠原は、この時の思考をそう振り返った。成就すれば全てがひっくり返る必殺の魔法。その魔力に魅入られてしまう気持ちは、痛いほどにわかる。だが、それを実現させるのはあまりに過酷な修羅の道だ。この手が空ぶってしまうことが、どれだけ手痛いことか。もしも願いが叶うのならば、時よ、戻ってはくれまいか。僕ならばそんなことを考えてしまいそうだが――。

そんな願いが、時に嘘のように叶うことがあるのも麻雀の魅力なのかもしれない。冷静さを取り戻した篠原は、を切って元の牌姿にすぐさま復帰した。直後――

与那城がを持ってきて、さすがに撤退。キー牌が1枚減ってしまったものの、これで篠原を阻む存在はなくなった。そして――

最後のが、ここに姿を現した! 役満・大三元テンパイ! ツモ番はあと1回ながら、山には4枚も残っている。

最後のツモ番、篠原はそれまでよりほのかに力をこめていたように感じられた。そこにいた牌は――

ではなかった――。この1巡の間にが与那城のもとへ1枚流れ、残る3枚は王牌の中。誘惑に負けず、最良のテンパイ形へとたどり着いた篠原だったが、その魔法が叶うことはなかった。

とはいえ、まだ戦いは続く。条件は厳しいが、この半荘でトップを取れば篠原にも予選通過の目は残る。南2局2本場、そんな彼女に再び好機が訪れた。8巡目、チートイツ・ドラ2・赤のテンパイ。場に1枚切れのという絶好の待ちだが、ここではヤミテンを選択。そして――

次巡にツモ切りリーチとした! このリーチは、じつに心憎い一打だ。一般的に、ツモ切りリーチは待ちや打点に不満があるから即リーできなかったという意見が浸透している。一昔前なら「ツモ切りリーチ=ぬるい」なんていう見解も多かったが、最近ではそれも古いと思う。そもそも好形・高打点がそろった手の場合もあるし、定石を逆手に取って戦略的ツモ切りリーチを駆使する実力派プロがいることも個人的に知っている。場に1枚切れの待ちなら、即リーするでしょ? となり、盲点の待ちになりやすいというわけだ。

故に、このを与那城が止められる理由はない。

ないはずなのに、与那城はたった1枚だけ持っている現物のを中抜いた。この日、与那城は再三にわたってファインプレーを披露していた。たった1巡でも凌ぎ、その間に安牌が増える可能性もゼロではない。大きくプラスしているが故に取れた判断ではあったが――

「ツモ切りリーチなので、がシャンポンで当たることはさすがにないだろうと思っていました。打った瞬間に、単騎かな? と思ったくらいで、完全に盲点でしたね」と与那城が振り返った通り、安牌ゼロではさすがに止められる牌ではなかった。

篠原の渾身の12600が炸裂し――

念願のトップ奪取に成功した。篠原は最終戦でトップになり、夏目と2着順以上の差をつけたいところ。一方、3回戦で与那城に競り勝って3着になった田渕ではあるが、他家とはずいぶん突き放されてしまった。だが、最終戦で夏目とトップラスを決めれば、別卓の状況次第で予選通過の可能性はある。彼女たちの命運が定まるまで、残るは1戦のみ――

まず大きなチャンスを手にしたのは篠原だった。東4局、ポンから発進し、シャンポン待ちから待ちに変化。チンイツ・赤の12000確定で、ぜひともアガりきりたい手だ。これに対し――

ドラを重ねた与那城が応戦する! リーチ・ドラ2・赤の親満確定手。3回戦にラスを引いた与那城としても、予選1位通過を目指して加点したい局面だ。本手同士のぶつかり合いは――

与那城が高めのをツモって決着! この6000オールは同卓者はもちろん、後半卓に臨む選手にとっても手痛い一撃だったに違いない。

次局も与那城にはチャンス手が入った。ドラが雀頭の1シャンテン。またしても6000オールがくっきりと見える。

が、先手を取ったのは現状ラス目の田渕。ピンフのみだろうが何だろうが、条件を満たすためにも退くわけにはいかない!

が、引きでイーペーコーを確定させて与那城が追いついた! 今度は満貫確定のこの手を、ヤミテンに構えた。田渕の河にが早く、黙っていればくらいはこぼれそうだが――

結局、脇からはこぼれず、さらに自身の押しが明白になってきたこともあり、リーチに踏み切った! これが成就すれば、篠原も田渕も、ほぼゲームオーバーだ。

が、ここは田渕が競り勝った! 値千金の800-1400で、難局を凌ぎきった。

続く南1局、田渕は2巡目から積極的にをポン! 手の内にトイツが3つあり、うまくいけばトイトイに仕上がりそう。「お散歩ポメラニアン」の異名を誇る田渕は、こういった仕掛けを多用する打ち手だ。第2節開始前は出場選手でぶっちぎりの41.67%という副露率を誇っていたが、この時点でその数字は半分程度まで落ち込んでいた。この日の彼女が、いかに苦しかったかを物語るようなデータだ。

が、ここでようやくポメラニアンが牙を剥いた! ポンから――

ポンと立て続けに仕掛け――

電光石火の1300-2600を成就させた。ここにきて、ようやく田渕らしいアガリが炸裂した。

そうして大事な最後の親番を迎えた田渕は、リーチ・ピンフ・ホウテイの5800を篠原から和了。徐々に与那城ににじり寄っていく。

が、親番の加点はここまで! 与那城が冷徹なまでのピンフのみを篠原からアガり、田渕の親番はここで終わりを迎えた。とはいえ、まだまだ逆転が不可能な点棒状況ではない。あと2局、そこで好機をつかみ取れればいいのだ。そして迎えた南3局、篠原最後の親番――

与那城に現れたのは、赤を3枚、ドラ2枚を携えた配牌だった。これはまずい。他家の夢が、今度こそ潰えてしまう。

ポンから発進し――

与那城は粛々と、介錯の一撃を整えた。は、1枚ずつ山に眠っている。ラス親は与那城。これが事実上の最終局になるかもしれない。

が、ここで田渕に起死回生の手が入った! ホンイツ・小三元の1シャンテン。間に合うか!?

与那城からがこぼれた! これでテンパイ。田渕としては、与那城から12000をアガれば条件クリア。次点で夏目からアガるのも悪くない。2着-4着の30000点差ならば、夏目をまくれるからだ。

が、ここで親番の篠原も食い下がる! できればピンズに染め上げたかったところだが、与那城も田渕も仕掛けていて、残されている時間は少ない。は全て枯れているが、景色は悪くないに全てを託し、リーチに踏み切った。実際、は丸々2枚山に残っている。そして――

篠原がをつかんだ! が、田渕はこれを当然のスルー! ここでポンして大三元に無理やり進むコースもあるかもしれないが、先に挙げた理由で与那城や夏目から12000を直撃できる価値は、あまりに大きい。故に、ここでは両者から出アガリできるスルーを選択したが――

夏目が同巡にを合わせた。は4枚目で、同巡フリテン故に直撃もできない。ならば――

そう、ポンだ! いったんフリテン3メンチャンに受け、のいずれかを引けば高め大三元のテンパイを組める。このままをツモっても、与那城と1600点差なら十分に勝機がある形でオーラスを迎えられる。そして――

来た。自らの力でつかみ取った、最高のテンパイ。この日、篠原に続いて2度目の役満・大三元テンパイだ。より山に眠っていそうという読みからのノベタンを選択。これが山に3枚も残っている!

さらに篠原がをカンして、の出やすさがアップする。田渕が3枚、与那城と篠原が2枚ずつ残っている当たり牌は、いまだに顔を見せない。残りの山は、あとわずか。どの牌がどこに向かうかで、彼女たちの運命は、人生は、大きく変わる。そんな最終局面だ。

これは、試練だ。刺激的で、残酷で、どこか切なささえ感じさせる試練だ。この至高のめくり合いは――
まさかの決着つかず! 合計7枚の当たり牌は、全て王牌に眠っていた。

与那城は1位通過が濃厚なほどにポイントを稼ぎ、夏目も別卓の結果次第でプレーオフ進出を果たせる。だが田渕と篠原の夢は、ここで終わった。

諸説あるかもしれないけれど、王牌の名称の由来は、麻雀の神様のために手牌14枚を残すところからきているそうだ。つまりそこは、人ではたどり着けない領域。試練を乗り越えるには、神様からも愛されなければいけないのかもしれない。

運命を分けた最終戦南3局、田渕も篠原も人智の限界ぎりぎりまで踏み込んで最良の選択に至ったことは間違いない。たしかに神は微笑まなかった。けれど、それは「今回の物語」で起きた結末だ。彼女たちはまだまだ戦い続けるし、舞い続ける。こんなことは、今の彼女たちには何の慰めにもならないかもしれない。けれど、願わずにはいられない。神様が平等であるならば、必ずどこかでとっておきの笑顔を向けてくれるはずだと。

文:新井等(スリアロ九号機)
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