シンデレラリーグ

プレーオフ3rd

知性と筋肉は裏切らない! 水谷葵の限界バルクアップ【プレーオフ3rd】


才女であり、剛腕である。日本プロ麻雀協会所属、「バルクアップリーチ」水谷葵。東京大学の大学院を卒業し、趣味の筋トレで鍛えた肉体美は男性顔負けだ。SNS上ではさまざまなコスプレ姿も披露し、なにかにつけて僕たちを楽しませてくれる。「麻雀ウォッチ シンデレラリーグ」に出場した総勢16名の中で、これほど情報量が多い人もいないのではないか。ラーメン屋に入ったら、高クオリティのカレーとデザートまで提供されたかのような、そんな良い意味で予想を裏切るカオスっぷりである。

もちろん本業の「ラーメン」も絶品で、第1回のシンデレラリーグでは準優勝という結果を残している。しかしながら昨年度はまさかの予選敗退を喫し、今年はその結果が響いて本戦への出場枠争奪戦からエントリーする運びとなった。水谷ほどの逸材に争奪戦から出場してもらうのは忍びなかったが、同時に「彼女ならば当然のように勝ち上がってくるのではないか?」という期待も抱いていた。かくして水谷は出場枠争奪戦で余裕の1位通過を果たし、本戦でもブロック2位という好成績を収めてプレーオフ3rdに勝ち進んだのである。


その実力を知らしめるには十分すぎるほど順風満帆な戦いぶり。だが、このプレーオフ3rdの前半2戦を終えて――
プレーオフ1stから勝ち上がって来た塚田と梅村に一歩後れを取る形となった。残る2戦で、水谷の2年ぶりの決勝進出が決まる。そのためには、最低1回はトップを獲りたいところではあるが――

3回戦、起家スタートの水谷には、いきなり赤2のチャンス手が訪れた。イッツーも見えるものの赤2ならば打点十分ということもあり、最もロスが少ない切りを選択。

次巡、あっさりカンを引いたが、慌てず騒がずに手をかけた。

さらに引き! マンズのカンチャンを払っていれば最短でイッツーのテンパイになっていたが、想定していたルートでもこのはタンヤオ変化になるうれしい牌のため、悲観することでもないだろう。また――

このようにマンズが雀頭候補になれば、フリテン3メンチャンで跳満が狙えるルートもある! 水谷の好配牌が、メキメキと育っていった。

この引きでさすがにをリリース。今度はタンピン赤2の跳満ルートに乗った。他家からすれば、親の水谷がをアンコ落とししていることは明白で、戦々恐々といったところだろう。

ここで梅村から水谷を封じるべくリーチが入る。一方の水谷からすれば、ここで梅村とトップラスを決めれば一瞬でボーダー圏内に滑り込める。大物手を直撃させるチャンスが、いきなり巡って来た格好だ。

をアンコにして、満を持してのバルクアップリーチ! 唸れ、筋肉!

が、このめくり合いは梅村に軍配が上がった。しかも裏2のオマケつき! 大チャンスのはずが、一転して窮地に追いやられてしまう格好となった。

南入して、この半荘2度目の親番。ここでは、わずか5巡で塚田から満貫確定のリーチが入った。トータルトップ目からの無慈悲な宣言に――

水谷も肉薄! 貴重な親番を失うまいと赤1のペンで勝負をかけたが――

塚田がツモ! さらに東1局に続き、ここでも裏2が炸裂! 3000-6000を親かぶりしてしまい、さらに崖っぷちに追いやられてしまった。

他家と大きく離され、親番も失った南3局1本場、それでも水谷は高打点のリーチを果敢にかけていった。メンピン赤ドラの待ちだ。

が、ここで梅村にタンヤオのヤミテンが入る。しかもは宣言牌とはいえ、水谷の筋だ。この手すら空振ってしまえば、この3回戦で水谷が浮上するチャンスはほぼ潰えてしまう。いや、それどころか――

もっとヤバイ人がいた! トータルラス目の涼宮に、ここに来て役満・国士無双のテンパイが入った。待ち牌のは3枚切れだが、この瞬間は誰が切ってもおかしくない。そして当然、水谷がつかんでしまう可能性だってある。明暗分かつ運命の一局は――

涼宮がをつかんで決着! 8300を涼宮から直取ったことで3着へと浮上した。

さらにオーラス、梅村と涼宮の2軒リーチをかいくぐった塚田が2000-4000を成就させたことで――

梅村とのポイント差を最低限に留めることに成功した。

「最悪、安牌がなくなったらみっきー(塚田)に差し込もうとも考えていました。自分がラスに落ちるとかなり苦しいんですけど、そこにアガられるのが一番マシなんで」

苦しい展開の中でも最善を模索し続けた水谷。その苦渋の決断を迫られずに済んだのは、間違いなく追い風だろう。梅村とのトップラス16200点という差は、十分に実現可能な条件なのだから。

せっかく繋がった希望の糸だ。このまま無駄にはできない。東1局に梅村が3メンチャンのリーチをかけたが――

当然、水谷は積極的に前に出る! この満貫確定リーチを直撃させれば、それだけでほぼ条件を満たせる。

が、ここは梅村が700-1300をツモ。この日、何度も本手のリーチをかけた水谷だが、なかなか勝ち名乗りを許されない。

東2局、をポンしている水谷にドラ2のテンパイが入った。ここは梅村の親番ということもあり、さっさとこの手をアガりきりたいところではあるが――

終盤に塚田からリーチが入った! 塚田はすでに大きくポイントを稼いでおり、もはや役満を放銃したとしても耐えられるほどの余裕がある。座順を加味して梅村のアシストに回る戦法も取れるし、徹底した守備的打牌でも勝ち上がりは濃厚だ。あるいは今回のように、普通に打つ選択肢を取っても大勢に影響はない。アシスト重視ならば梅村有利だし、守備に回れば梅村が鳴きにくい分だけ水谷が有利になる。もしかしたら塚田は、フラットに打つことによって誰かの有利に働くような打牌を避けたのかもしれない。かくして塚田が振ったサイの目は――

梅村にとって最悪の展開を生んだ!

梅村から一発で出アガった塚田が8000を和了。これにより、水谷は塚田をまくるだけで条件クリアという状況になった。

東3局は水谷にとって大事な親番だ。厳しい手牌ではあるが、積極的にネックのをポンしていく。

が、この人も当然黙っているわけがない! リーチ・・赤2の本手で、涼宮が猛然と水谷に襲いかかる!

このリーチを受けて、チャンタ・三色・ドラ3の1シャンテンだった梅村は撤退。彼女からしてみれば、まだここは無理をする段階ではない。

が、ギリギリまでテンパイを目指した水谷が、安牌に窮し――

8000の放銃を喫してしまった。

この一撃でラス目に転落してしまった水谷だが、次局に好機到来。3巡目で好形の1シャンテンとなったが、才女・水谷の頭脳が弾き出した決断は十分形取らずの打というものだった。

「いい形ではあるんですが、の二度受けがかなりきついと思っていました。また、もっと打点を作りたかったというのもありましたね」
たしかにが1枚切られており、この時点のピンズ場況も決して良くない。故にソーズの伸びを期待してを残したのだが――

絶好の引きで劇的な変化が起きた! さらにここでイーペーコーを見切る切りをチョイス。すでに赤とドラがあって打点が確保されており、枚数的に優れているターツを残した。を先に手出ししていることもあり、が盲点になりやすいというメリットもありそうだ。

が、梅村にもポンテンが入った。水谷は間に合うのか!?

間に合った! 見事にをとらえ、激アツの3メンチャンリーチを宣言した。これが――

涼宮を直撃!

先ほどの8000点をすぐに取り戻し、自らの力で窮地から這い上がる結果となった。

南2局1本場、梅村の親番で生まれたのは塚田の3100-6100! 梅村との点差は開いたものの、水谷としてはトップは必須条件だ。残る2局で、なんとしてでも塚田をまくらなければならない。

そのためには、この南3局の親番で絶対に加点をしたいところ。4巡目にドラが重なり、条件達成が現実味を帯びてくる。チートイツの1シャンテンやトイトイも狙えそうな形になったが――

ここでは仕掛けにも対応しやすい切りを選択した。

もアンカンして準備万端といったところだが――

テンパイしたのは際の際。残りツモ番は、もう3回しか残されていなかった。カンかカンの選択ができたが、ここではカン待ちとした。

がどこかに固まっているかもしれないと思ったのと、よりもの方が安全そうに見えたからといった理由からです」

絶妙なバランスをキープしつつ、起死回生の一撃を狙う。そして――

次に控えていたのはだった。こんな瀬戸際で裏目を引いた時の心境たるや、どれほどのものなのだろう? 頭がクラクラして、奥歯を噛みしめたくなるような現実を突き付けられつつ、それでも水谷の表情に大きな変化は見られなかった。

筋肉は裏切らない。不断のトレーニングを続ければ筋肉は成長を続けるという意味合いの名言は、とあるテレビ番組をきっかけに広く浸透した。

そして裏切らないのは、筋肉だけではない。水谷が携える知性もまた――

彼女を裏切らなかった! 最後のツモ番でを引き当てて、起死回生の4000オールを成就させた!

次局は水谷が塚田に1000は1300の放銃を許し、その点差は11400点に。

オーラス、水谷はこの手を跳満に仕上げる必要があった(ドラは)。

だが、塚田が早い! のポンテン、カン待ちだ。

さらにへと変化。決着は時間の問題かに思われた。

続けて梅村もでテンパイ! 迫りくる包囲網。これはもう風前の灯なのか……!? が、これが思いのほか決着が長引く。その結果――

梅村はリスクを回避するために、ピンフのテンパイを役なし3メンチャンへと受け変える格好となった。

だが水谷は、いまだ1シャンテン。これが序盤であれば567の三色も狙えるかもしれないが、いかんせん残り巡目が少なすぎる。

梅村は、もう完全に撤退だ。彼女からの直撃は期待できないだろう。一方でフラットに打つだけの塚田や、最後の親番にかける涼宮からの直撃の目は、まだ残されている。そして――

水谷に念願のテンパイが入った。だがはすでに6枚も見えている。ならば、このテンパイを外すのか? あるいは567の三色を目指すのか? この巡目で!? 様々な選択肢が、水谷の脳内を駆け巡る。選び抜いたのは――

リーチだ! この巡目での再構築は不可能だと判断し、一発や裏などに身を委ねることにした。また、塚田は水谷に対して当たり牌を絞る理由がなく、なおかつ彼女はを捨てている。だからこそ直撃が期待しやすい局面なのだが、それでも一発や裏が必須条件だ。

知性を道標に、運命に身を託す。その道の果ては――

舞踏会の終焉だった。

「きっつい条件だなとは思っていたんですけど、ここまで展開に恵まれるとも思ってなかったんですし、それをものにできなかったのがめちゃくちゃ悔しいです」

あと一歩届かなかったその場所に、次までにどのようにして届かせるのか? 水谷の生き様を見れば、それをよく知っていることは明白だ。努力の積み重ねは、筋肉同様に知性をも成長させる。筋肉は裏切らないし、知性も裏切らない。そして水谷は、自分自身を裏切らない。今後、さらに「バルクアップ」した彼女を見るのが楽しみでならない。

文:新井等(スリアロ九号機)
麻雀ウォッチ シンデレラリーグ2020プレーオフ3rd
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