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「ねぇねぇ、こんなにレベル高いの!? 今回がすごすぎるだけだよね!?」

「麻雀ウォッチ シンデレラリーグ2018」(以下シンデレラリーグ)の開幕戦終了後、そう僕に問いかけたのは、この日の解説を務めた多井隆晴プロ。RMU代表にして、Mリーグでは「渋谷Abemas」を牽引する麻雀界の第一人者だ。そんな立場の方だから、とくに解説中は対局者へのリスペクトを欠かさない。真意はともかく、聞いていると「もしかしてリップサービスかな?」と思うようなこともある。が、今回のケースは別だ。視聴者を含め、誰に発信しているわけでもない。麻雀スリアロチャンネルの、一スタッフに過ぎない僕に対しての発言だ。話を聞いた時点で、この観戦記を書くことも決まっていない。100%、オフの場面での感想だった。まだまだ若手だと思っていた選手たちが想像以上に台頭していたことに驚き、うれしかったのだと思う。

そのくらいのインパクトがある対局だった。シンデレラリーグは最高位戦日本プロ麻雀協会、日本プロ麻雀協会、RMUの麻雀プロ3団体から選ばれた24名の新鋭女流雀士にスポットを当てた対局番組だ。昨年に続き2回目の開催で、今年は麻雀スリアロチャンネルだけではなく、AbemaTVでも同時生放送されている。視聴者数は倍増し、その中でプロ歴3年~5年ほどの容姿端麗な雀士たちがしのぎを削る。じつに華やかだ。華やかだが、それだけではなかった。きらびやかに着飾った衣装の下に忍ばせていた刃は、あまりに鋭く、そして美しかった。

ロゴ_シンデレラリーグ
およそ1年前、企画会議の席で「シンデレラリーグ」のネーミングを提案したのは僕だった。その席で多くは語らなかったが、僕はそこに一つの意味を込めていた。

女流雀士の総数は一昔前よりだいぶ増えたが、彼女たちを軽視するような意見は今も耳にすることがある。「女だから」「若いから」。そんな理由から色眼鏡で見るわけである。「麻雀界における男女比が~」とかいろいろ思うところはあるけれど、ここで、その是非について討論を交わしたいわけではない。何が言いたいのかというと、今をときめく女流プロたちは、僕ならメンタルブレイク確実な世界において耐え忍び、いつか花開くために腕を磨き続け、それを結実させた人たちなのだということ。だから「シンデレラ」なのだ。逆境に身を置かれた「灰かぶり姫」が、輝きを放つきっかけとなる舞踏会になればいい。そんな思いで命名した大会名は、運良く採用された。

なお、その理屈に照らし合わせると僕らは魔法使いになってしまうのだけれど、スリアロは基本、三十路を過ぎても●貞だとなれるという噂の魔法使い集団でしかなく、しかも実際には何の魔法も習得できていない。なので開幕戦の盛り上がりを生んだのは、純粋に彼女たちが秘めたポテンシャルの結果なのだと思う。魔法なんて、なかったんだ……。

そんな活況を生んだ開幕戦に挑んだ対局者は、以下の4名。

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さらっとシステムとルールを紹介をします。ご存じの方は、読み飛ばしてください。

予選はA~Cブロックに8名ずつ分かれ、1節4回戦を3節、計12回戦を行う。各ブロックの1位と2位は無条件で準決勝に進出。さらに3位の選手はプレーオフ2nd、4位の選手、そして各ブロック5位の選手の中でトータルポイントが最も多い選手が、プレーオフ1stへと進む。

プレーオフのシステムは、1stに進出した4名で対局を行い、トップ者のみが2ndへと進出。2ndでは上位2名が準決勝へと勝ち進む。準決勝進出者8名は2卓に分かれて対局を行い、各卓の上位2名が決勝進出という流れだ。

ルールは赤アリのアガリ連荘、順位点・オカを加えて10-40となっている。

システム・ルール説明ここまで!

シンデレラリーグの予選は1位と2位が同価値。3位の準決勝突破率が1/2、4位が1/8、5位の選手にもワンチャンスがある。第1節時点ではさほど関係はないが、終盤になるにつれて選手各人の狙い目が変わってくるのが面白い。また赤アリルールということで高打点が生まれやすいが、反面、アガリ連荘ということでリーチ判断、押し引き判断にもテンパイ連荘とは違った駆け引きが要求される。

この日、このルールの恩恵を最大限に受けたのが、RMUの「手役のお花奈」里中花奈だった。

里中
終始ドラが押し寄せてきて、テンパイ速度もズバ抜けて早い。この日4戦の成績は1-1-3-1と絶好調。トータルポイントは+140.7pと、一人浮きの結果となった。多井プロが「今日の里中には絶対敵わない」と舌を巻くほどの圧勝劇だった。

これだけだとバカヅキで終わったとしか思われないが、無論それだけではない。例えば1回戦の南1局。

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親番で、2着目の鶴海とは23300点差の大きなリード。ここで篠原のリーチを受け、1シャンテンから現物のs1を河に置いた。篠原が5巡目にm3を切っており、m1は通りやすそう。m1くらいはと、前に出る人もいそうだ。だが好形の1シャンテンとはいえ、見えているドラは篠原が切ったs9のみ。567の三色もうっすらと見えるが、安く仕上がるケースの方がはるかに多い。運良く567になったところで、s3s7のどちらかが出ていく公算は高く、s5rが絡んで8000点放銃なんていうことになれば、目も当てられない。ラス親には、当面のライバルである鶴海が控えているのだ。打s1としておけばs2も篠原に通るので、比較的安全にテンパイへとこぎつけられるかもしれない。エンディングで多井プロが「あんなにしっかり降りるんだね」と感心していたが、里中の慌てず、騒がず、安定してリードを守り抜く姿勢を高く評価したのだろう。

その反面、勝負所での押し引きにも目を見張るものがあった。

1回戦オーラスの、この場面。

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2着目の鶴海とは7300点差で、2000オールで引っくり返る接戦だ。そこでうれしい先制テンパイ。鶴海が切ったばかりのz5単騎待ちに構えた。

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その2巡後、鶴海がs8を引き入れて、リーチ・イーペーコー、3900点のリーチをかける。ツモればひとまず逆転。裏や一発が絡んで満貫になれば、次局に伏せることも可能だ。だが、鶴海がリーチをかけたことで、現物のz5が場に切られる可能性が飛躍的にアップ。奇しくもこの時、山田がz5を一枚確保していた。安牌をツモ切れれば、里中に軍配が上がりそうな局面だ。安牌……安牌……。祈る様に手を伸ばした里中が持ってきたのは――。

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無筋、かつ不要牌のp6。小考した後、里中は――、

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そっとp6をツモ切った。ここで鶴海の河に注目。p5 を手出し、p7をツモ切りしている。その後、z5ツモ切り、m2 とp2は手出しだ。何としてでもアガリが欲しいこの局面、さらにアガリ連荘ルールということも考えると、p3 p6待ちで固定している可能性はそこまで高くはなさそうだ。p7は引っ張らず、m2 とp2を残している。ピンズで当たるケースの本線はp1p4で、前述と同様の理由でp6 p9固定はないと睨んだか。実際、里中にこの局を振り返ってもらうと「ピンズの上目は完成していると読んだ」という。この判断が功を奏し、山田から1600点を出アガり、里中が快進撃を続けるきっかけを作った。

この日、大きく抜け出たのは里中だが、他の選手もそれぞれの持ち味を十全に発揮してみせた。

鶴海

最高位戦日本プロ麻雀協会の「4センチメートル自由形」鶴海ひかるは、一日を通して非常に厳しい展開が多かったように思う。しかし、ミスらしいミスもなく、キャッチフレーズに恥じない積極的な仕掛けも存分に駆使して、2節目以降に浮上する可能性を存分に感じさせた。

2回戦、東3局1本場でのかわし手は、じつに鮮やかだった。

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ドラm8。28700点持ちで微差ながらトップ目の里中が、1巡目に山田が切ったダブz1を軽快にポン! さらに次巡にカンs2を埋めて打p8とする。ここまで里中は、字牌を1枚も切っていない。よほど整った手か、字牌やマンズを絡めた高打点の手格好のように見える。これに即座に反応したのが鶴海だった。

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上家の篠原が切ったz4を、迷うそぶりもなくポン! 門前で進行して456の三色にまで育てば、満貫、跳満クラスに化けそうな手ではある。だが、すでに親の2翻以上が確定しており、対面の山田の河も派手だ。悠長に手作りをしている時間はないと見たのだろう。それに鳴き進行だったとしても、s5r やp5rを引き入れれば、十分に満貫が狙える。この電光石火の判断力が、鶴海の強みだ。すぐにp4を重ね、篠原からp8をポン。そして――、

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息をつく間もなく、という表現がぴったりの500-1000のアガリを決めた。3回戦では高打点の応酬に呑まれて箱下10000点と低迷したが、この日のトータルは▲45.6p。厳しい展開でも必死に食らいつき、小さなマイナスに押さえたのは脱帽ものだ。「自称優勝候補No.1」と冗談交じりに語ってはいた鶴海だが、「自称」の2文字が取り除かれてもおかしくはない。

山田

鶴海とは対照的に、門前の手組で解説陣を唸らせ続けたのが、最高位戦日本プロ麻雀協会の「ブチギレリーチ」こと山田佳帆だ。愛らしい猫耳ルックとは裏腹に、リーチモーションがブチギレているように見えることがネーミングの由来だという。この日お目にかかれなかったのは、気合が入るまでの本手が入らなかったからなのか、ブチ切れるほどの展開でもなかったということなのか……。見たいような、見たくないような、何とも複雑な心境である。

多井プロと同じく、この日の解説を務めた綱川隆晃プロは、山田についての印象を問われて「好きです」と評した。おそらく雀風のことだと思う。おそらく……。

実際に彼女の対局を観ると、その評価も頷けるシーンが随所に見られた。高打点を見据えて躊躇なくシャンテン戻しをするタイミング、浮き牌の残し方など、まさしく通好みの小気味よい雀風だ。多井プロも「僕と同じスタイル」と、何度もシンパシーを露わにしていた。

そんな山田の判断力が光ったのが、この日の最終戦南3局5本場でのシーン。

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先制したのはトップ目の里中。z4のトイツ落とし、カンp7のテンパイ取らずといった手順で、リーチ・ピンフ・ドラ1・高め三色というチャンス手に仕上げた。「手役のお花奈」というキャッチフレーズを思い出さざるを得ない。しかも、このp4 p7が8枚全て山に残っているというのだから、視聴者の多くは彼女のアガリを確信したに違いない。

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またこの時、親の篠原にチャンス手が入っていた。s8をポンしており、タンヤオ・ドラ3・赤の2シャンテンだ。字牌を処理して、

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p4を使いきって1シャンテンとなる。

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同巡、ラス目の山田の元へもp4がやって来る。ラス親を控えているとはいえ、簡単に降りたくはない。というか、現物がm3しかなく種類も少ない中で、降り切れる保証がまるでない。受け入れマックスなら打s4だが、自分から4枚見えているs4 s7は、なんとも切りにくい。そうなると、p4が選ばれてもおかしくなさそうだ。山田の答えは――

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s6! s7s8のダブルワンチャンスから、s6 s9待ちである可能性は低い。であるならば、s6s4よりだいぶ押しやすい。s1 s4s4 s7待ちが否定されていない状況で、1シャンテンからドラターツに当たる可能性さえあるs4を押すのは、割に合わないと見たか。そしてs6を切るのであれば、三面張の種であるp4を切るわけにはいかない。本人にこの時の思考を聞くと「早い巡目でこの手を仕掛けてアガるつもりは全くなかった」とのこと。ここが勝負所と見ていたようだ。そしてこの選択が、反撃の狼煙だった。

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p6を引き、m6 m9待ちでリーチ! 里中の待ちは残り6枚、山田は4枚。もう、どちらが勝ってもおかしくはない。

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ほほ笑んだのは山田だった。篠原は、鶴海が合わせたs4をチーしてm3 m6待ち、満貫のテンパイを入れたが、結果、m6が山田の元へ食い流れることとなった。もし鶴海がs4を合わせず、もう1枚抱えているs9を切っていたらどうなったのだろう? そんな「if」も想像させる、見ごたえのある一局だった。

山田は、アガリ連荘ルールとしては異例の19局にも及ぶ長丁場となった3回戦でトップを飾り、最終4回戦も3位でフィニッシュ。トータルポイント▲23.9pで、里中の暴風域の中において被害を最小限に食い止めた。マイナスポイントとはいえ、この日、その名を轟かせるには十分すぎるほどの活躍を見せた。

そして、最後に紹介するのは日本プロ麻雀協会所属、「あなたのハートをツモりたい」篠原冴美だ。

篠原

プロ歴は間もなく3年になろうというルーキーだが、グラビアアイドルとしても活躍しており、戦前から大きな注目を集めていた一人だ。この日出場した4選手の中で、僕が最も成長を感じたのは彼女だった。そして僕が勝手に掲げる「シンデレラリーグ」のテーマに最もマッチしていたのも、篠原だと感じていた。

プロ雀士は個人事業主だ。プロの世界では実力・結果が重んじられるのは当然だが、セルフプロデュースが長けている選手には、より多くのチャンスが巡ってくる。だから篠原のグラビアアイドルという肩書きは、彼女オリジナルの立派な武器だと思う。

反面、成長を感じさせたり、結果を残せなければ、激しいバッシングを浴びることがある。人気がある、注目されるというのは、そういうことだ。だからこそ、篠原は熱心に麻雀の勉強に励んでいるのだろう。幸い、僕は彼女のデビュー当初の放送対局から、運営に携わる機会に何度か恵まれた。1年前と今では、雀力に雲泥の開きがある。この日の成績は4-2-2-4、トータルポイントは▲71.2pに終わった。だが、新鋭女流雀士と渡り合えるほどに成長したという姿は、ファンの目にしっかりと焼きついたはずだ。

篠原の最大の見せ場は、2回戦オーラスに訪れた。

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現在ラス目の篠原に、ドラ・赤を含んだテンパイが入る。3着目の山田とは1800点差。2着目の鶴海とは10300点差、トップ目の里中とは17500点差。鶴海は自風のz3をポンしているピンズのホンイツ模様だ。リーチ棒が出れば満貫ツモで2着に届くが、里中がリーチする可能性は低く、山田次第といったところか。

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篠原が選択したのはz5m7のシャンポンだった。この選択は、もしかしたらマイノリティかもしれない。m9が2枚切れているとはいえ、見えている枚数だけで言えばz5m7が3枚に対し、m6 m9は残り6枚だ。鶴海は着落ちを嫌って降りに回ってしまうかもしれないが、3着でも上等ではないか。あぁ、山田からリーチも入った。ん? m6 m9は残り1枚、z5m7は残り3枚だって? まさか――

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僕をあざ笑うかのような、ド高め一発ツモ! リーチ・一発・ツモ・白・ドラ・赤、3000-6000という最高の結果で、2回戦を2着で終えることに成功した。

シンデレラリーグの予選は全12回戦。決して長くはない。経験で勝る相手にスプリントマッチを勝ち上がるためには、どこかで大きな勝負に出るのは必須だと思う。どんなに苦しかろうと、ファンのために一つでも上の着順に――。そんな「灰かぶり姫」の矜持を聞いた気がした。

こうして四者四様の個性が飛び交う結果となったシンデレラリーグ開幕戦。改めて、結果は以下の通りとなった。

成績
放送終了後に多井プロが驚嘆した理由が、僕の拙文でわずかでも伝わったのであれば幸いだ。物足りない方は、ぜひとも本放送をチェックしてほしい。

そういえば、多井プロの問いかけに対して僕が何と答えたのか。すっかり書きそびれていた。

「いえいえ多井さん、次からも間違いなくヤバイですよ」

文:新井等(スリアロ九号機)

麻雀ウォッチ シンデレラリーグ 第1節 Aブロック1卓
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