お散歩先は最高の景色。田渕百恵のグレート・ジャーニー【麻雀ウォッチ シンデレラリーグ 第2節予選Cブロック2卓】
最高位戦日本プロ麻雀協会には、飛び抜けてブログが面白いと言われる三巨頭がいる。
1人目は浅見真紀。千葉大学大学院を卒業している才女でもある彼女は、知己に富んだボキャブラリーで笑いを誘う。
2人目は神尾亮。かつてネット界で一世を風靡したテキストサイトを彷彿とさせる計算し尽くされた文体は、読んでいてじつに小気味いい。
そして今回の観戦記の主役である田渕百恵だ。
捉えどころのないフワフワとした文体かと思いきや、時おり見せるジャックナイフがごとく切れ味鋭い言い回し。紆余曲折の連続で、ついつい中毒になってしまう魅力にあふれている。
そんな彼女のキャッチフレーズは、知人が考案したという「お散歩ポメラニアン」。これだけだと何のこっちゃと思う方もいるだろうが、麻雀における「お散歩」とは、主に「とりあえず鳴いて前進してみること」を指す。鳴き麻雀に重きを置く百恵ちゃん(本人がこう呼ばないと嫌がるので、今回は馴れ馴れしく書かせていただきます)を表したキャッチフレーズなのである。なお「ポメラニアン」と名付けられたのは、おそらく何となくである。
麻雀ウォッチ シンデレラリーグ予選第2節の最終日となったこの日、現在ブロック内6位の百恵ちゃんは、7位の中月、4位の川又、3位の丸山と対戦。Cブロックは上位2名が大きく抜けている状況だ。それを踏まえると、3位と4位と同時に対戦できるのは、最終節へと向けて都合がいい組み合わせとも言えそうだ。
「この1ヵ月半が、本当につらかったです。負けたまま次に挑むというのは、つらいものですね。赤アリ、アガリ連荘ルールの練習も、強い人たちに付き合ってもらいました。(山田)独歩さんとか、片山(まさゆき)先生とか。あとはこのルールに慣れている人に、牌姿を持って行って意見を聞いたりしていました。アガリ連荘なので、リーチ判断が難しいんですよね。で、悩んだ結果やっぱり鳴いちゃおうという結論になりました」
麻雀を覚えたての頃から、とにかく鳴きが好きだったという百恵ちゃん。彼女の一面を表すこんなエピソードがある。
「昔は『出るポン、出るチー』で、とにかく鳴いていました。それで、お世話になっていた麻雀荘の方から『お前はもう鳴くな』って言われたんですよ。でも、すごく鳴きたくて。ある時、その人が私の後ろで見ている時
に、涙をぽろっと流しながらポンと言ったことがありまして(笑)。本当に、一粒だけポロッて出たんですよ。で、その人に笑われながら『お前はそれでいいよ』って認めてもらえるようになったんです。私も、鳴いても強くなるようになれば文句言われないだろうと思うようになりました」
鳴けなくて、泣く。そんな冗談じみたエピソードを、百恵ちゃんは流暢に明かしてくれた。さすが三巨頭の一角である。
第1節は手が入らず、得意のお散歩を駆使する局面が少なかった。「完全にお留守番でした。ハウスでした」(百恵ちゃん談)という状況の中、▲61.6pの負債からスタートしてしまった。これを一気に返上すべく、百恵ちゃんは1回戦から積極的にお散歩を開始する! 今回の観戦記では、彼女の仕掛けをピックアップしつつ、百恵ちゃん流のお散歩術を解き明かしていこうと思う。
■お散歩するための身支度の整え方
1回戦オーラス2着目の親番、トップ目の中月とは20000点弱の差という状況で、5巡目に以下の牌姿。さぁ、何を切る?
赤が2枚あって、満貫が十分に見える。タンヤオやイーペーコーも絡めば、6000オールも現実的だ。門前手順なら、、
を切っていくのがマジョリティだろうか。
百恵ちゃんはを切って、リャンメンターツを払っていった。高打点の手で一撃でトップ目に立てれば理想的だが、トップ目の中月は一刻も早くこの局を終えたい状況だ。門前にこだわっている間に後手を踏んで、軽く蹴られてしまったら元も子もない。ならばタンヤオ仕掛けの妨げになる
の価値は低くなる。そして何より、中月が
を2枚、川又が
を2枚、丸山が
を1枚、それぞれ早々に河に放っている。
は、いかにも山に眠っていそうだ。全日本場況厨協会の名誉会員である僕、歓喜の瞬間である。
思惑通り、がズボッとカンチャンを埋める。
打として十分形へ。
も山にいそうではあるが、4枚見えではさすがに分が悪いか。場況に溺れないバランス感覚だ。
この仕掛けに敏感に反応する百恵ちゃん。門前への未練など一切感じさせず、川又の放ったを悠然とポンした。
この仕掛けが中月のテンパイ打牌を捉え――
うれしすぎる5800点の直撃。
「赤2枚で打点があって、中月さんから直撃できれば十分においしい。中月さんが攻撃的な打ち手で、あの局面はさらに前に出てくるだろうと予想していたので、今回の選択を取れました」
その後、百恵ちゃんはリーチ・一発・タンヤオ・ツモ・赤1の4100オールも決め、トップで1回戦を終えることに成功した。
続いて2回戦の東1局1本場。
なんともゴージャスな配牌をもらった百恵ちゃん。平和系の横伸びにも期待できるし、ピンズの染め手も素直な進行で作れるかもしれない。
を引いて打
として、あれよあれよと門前チンイツの1シャンテンとなった。現状、門前テンパイならイーペーコーやチートイツが確定し、倍満濃厚の超大物手だ。
が、百恵ちゃんは過剰な夢を見ない。ノータイムでをポンして、カン
のテンパイに構えた。なんと、ピンズ余らずの跳満だ。
これに飛び込んだのが川又。百恵ちゃんの上家の川又は、鳴かれることも極力避けたかったため、のトイツ落としなど迂回をしていた。だが、ここまでの勝負手となってはやむなし。宣言牌を鳴かれるのでは……と思っていたという川又だが――
まさかの12000点放銃! なんとも恐ろしいアガリだが、この手を成就させたのは百恵ちゃんの鳴き判断の賜物だ。ポンだけではない。中月の河にある
に注目していただきたい。
「門前のチンイツ1シャンテンは魅力的でしたけど、やっぱりテンパイが偉いのでポンテンを取りました。中月さんのも鳴けましたけど、
にしても枚数は一緒なんですよね。
待ちは盲点になるかもしれないけど、2フーロすると、さすがに誰もピンズを出してくれない。なのでカン
待ちのまま続行しました」
麻雀を始めたばかりの頃の「出るポン、出るチー」だったという百恵ちゃんは、もういない。他家から自分の仕掛けがどう見えるかを考慮し、俯瞰した上での選択が取れているのは、鳴き慣れているが故だと思う。
その後も3000-6000のアガリなどで加点を続け、圧巻の内容で百恵ちゃんは連勝を収めた。
■そこに絶景があるならば
百恵ちゃんの「お散歩」は、目的もなく闇雲に歩み出したりはしない。場況なり打点なり、何かしらの目的地を指した羅針盤を手に、綿密な計画と積み重ねた経験をもって万全の旅路を往くような印象がある。そのゴールへと向かいたいから鳴くわけだが、時には周囲にあったつぼみが急に芽吹くように、わざわざ前進せずとも絶景の中に身を置くこともある。
6巡目の百恵ちゃん。か
を切れば、タンヤオ・赤・ドラのテンパイだ。百恵ちゃんは
を切り、ヤミテンに。リーチがかけられそうな待ち選びへと突入する。麻雀愛好家の界隈では、たまに「単騎探しの旅」なんていう言い回しをする人もいるが、これもある意味、お散歩かもしれない。
道中、
のノベタンに取ることもできたが、すでに
が2枚切れており、
もドラ。そう簡単にアガれそうな待ちには見えないということで――
その後もフリテンになる牌ばかりをツモ切り続けていたのだが、が全て見え、
も百恵ちゃんが2枚切っている。みるみるうちに
が待ちとして優秀な牌となり、12巡目に
をツモ切ってリーチをかけた。理想を言えば最終手出しが
だったため、空切りリーチをしたかったという百恵ちゃん。だが、巡目も終盤に差し掛かったことを考えると、ここが分水嶺だろう。
このリーチにつかまったのが川又。1シャンテンからをツモ切ったら――
一発に裏ドラも乗って12000点! この日の百恵ちゃんは、とにかくよく跳満をアガっていた。
そんな見せ場を作った百恵ちゃんだが、3回戦はここまで低迷していた丸山がトップを奪取。
南3局1本場、丸山のリンシャン・ツモ・赤の1700-3300のアガリはじつに秀逸だったので、ぜひご覧いただきたい。
3回戦まで終了して、百恵ちゃんが4位、丸山が3位となった。4位までプレーオフ進出の権利が与えられるが、百恵ちゃんとしては1着でも上を目指したいところだ。
■絶景へ向けての進撃。それが百恵ちゃん流のお散歩
これまで挙げたように、百恵ちゃんのお散歩は絶景というゴールをつねに見据えている。そんな思惑通りの進行ができた局を、最後に紹介しよう。
直後にのポンができ、ペン
のターツを払っていく。
・ホンイツのコースだ。
さらに切れた直後のが重なった。これを鳴ければ、役々・ホンイツ・トイトイの跳満が見える。
この場面は要チェック! 丸山が放った3枚目のをスルーしている。2度受けの
に構えても、決して優秀な待ちではない。むしろ
は他家が早くも
を捨てていることから、山に残っている可能性が十分に考えられる。そしてツモ牌の
を、まるで迷うそぶりを見せずにツモ切った。打点バランスも考慮して、あくまで照準は跳満だ。
オーラスでは百恵ちゃん、丸山、川又の3者が2900点以内という僅差の戦いだったが、ここを丸山が制して連勝を飾るという結果に終わった。オーラスを含め、非常に見どころの多い局面の連続だったので、とくに最終戦はご覧いただきたい。
この日1日で、百恵ちゃんは100.5pのプラス。卓内トップの成績で、ブロック内順位もボーダーの4位にまで上がった。
「希望が見える結果で良かったです。最終節では与那城さんと当たるので、まくることができれば最高だなとは考えています」
お散歩と呼べるほど、平坦な道のりではない。だが、たとえポメラニアンほどの歩みだとしても、シンデレラの頂という絶景へは着実に近づいている。グレート・ジャーニーの幕は、この日、上がった――。
文:新井等(スリアロ九号機)
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