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鶴海
最高位戦日本プロ麻雀協会所属、「4センチメートル自由形」こと鶴海ひかる。麻雀がメンタルゲームだと言うのなら、彼女のそれは間違いなく一線級だ。

8名中6位という追い詰められたポジションで予選最終節を迎えた鶴海は、番組冒頭で「去年のシンデレラリーグの時は最終節で▲2ooポイントくらいだったんですけど、その時に比べれば気持ちは晴れやか。ハッピーです」と、笑顔で意気込みを語っていた。そして有言実行とばかりに予選を4位で通過。プレーオフ1stへ進出を果たし、この日もまた「予選は省エネ。計算通りです」と笑みを浮かべていた。本心は、プレーオフを経て準決勝への切符を手に入れるより、ストレートで準決勝進出を決めたかったことだろう。だが、彼女は後ろ向きな言葉を一切口にしない。

「とにかくうれしかったです。麻雀が打てる! やったハッピー! って感じでした。前日は一日中歌を歌ってました(笑)」

強靭な精神力の持ち主だから、鶴海の打牌は本当にブレない。それがどんな大舞台であろうと、極限まで追い詰められていようと、それこそ水を得た魚のようにスイスイと泳ぐのである。

対局者

プレーオフ1stは、たった1つの座をかけた半荘2回のスプリントマッチ。2戦のトータルトップだけが、各ブロック3位の選手が待つプレーオフ2ndへと勝ち進める。1stは、鶴海と同じく鳴き仕掛けを得意とする田渕、守備力に定評にある都美と丸山という組み合わせとなった。鶴海と田渕が手数で勝負し、都美と丸山が対応する。そんな展開を予想した。

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想定通りと言わんばかりの展開が、1回戦東1局から訪れた。親の田渕にドラ2・赤2の超チャンス手が押し寄せる。

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わずか6巡で、仕掛けても満貫という手広さに。

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p3を仕掛け、m4 m7待ちのテンパイを取った。このスプリントマッチでの12000点の価値は、あまりに大きい。だが、これがなかなかアガれない。勝負はもつれ――

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鶴海がチートイツのテンパイで追いついた。田渕はチーをした後、ひたすらツモ切りを続けている。テンパイでもおかしくないが、幸いs3 z7ともに田渕の安牌だ。

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鶴海は2枚切れのz7を捨て、s3待ちでのリーチを選択した。

「チートイツに関しては、即リーチを打つことが多いです。うっかりツモっての1600-3200が大きいし、さらにうっかり裏が乗ったら破壊力抜群。待ちも道中で選び放題と、いいことばかりの役で大好きです。s3に関しては、仕掛けている親の現物なのもあってヤミテンにしてもよかったんですけど、これはトップ取りの一回勝負。自分がs6を切っているので、リーチしても安牌で選ばれることがありそう……などなどを加味してリーチしました」

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このs3は山になかったのだが、鶴海のハイテイをずらすために都美がチー。その結果――

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田渕のロン牌であるm4が丸山の元へ流れた。鶴海が放銃していたら、ホウテイもついて18000点の失点だった。そして丸山、ここで安牌が尽きているのである。打牌候補は筋牌のs2s3のみ。s2は生牌で、シャンポンやカンチャンに当たる可能性が十分にある。そしてs3は、鶴海の目論見通り、田渕の現物なのである。

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ならば、切れる牌は1つしかない――

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リーチ・タンヤオ・ハイテイ・チートイツ、8000点のアガリ。鶴海が早々に大きなリードを手に入れた。

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続く東2局、田渕がリーチ・赤、高めイーペーコーとなるp3 p6待ちの先制攻撃を仕掛けた。

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これを受けた鶴海は、1シャンテンからp6で一発放銃をしてしまう。安牌はs5r1枚のみ。降り切れる保障がなく、これを切ると復活はかなり難しい。まだ東場で、8000点のリードはアドバンテージにはならない。追撃するために序盤でめいいっぱいの手組にするのはオーソドックスであるし、3巡目以降に安牌として抱えられそうな牌も持ってこなかったため、これはやむなしか。

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このアガリが、なんと裏3で跳満に! 東1局に大物手を逃した田渕が、トップ目に立った。なんとも手痛い失点を喫した鶴海だが、その泳ぎにかげりは見られない。

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東4局には、ドラ待ちのチートイツをテンパイした丸山の宣言牌を捉え――

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リーチ・タンヤオ・ピンフ・ドラ1、8000点の加点。トップ目の田渕へ追いすがる。

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南入すると、さらにギアを上げたかのように鶴海と田渕の猛攻が繰り広げられていく。配牌でチートイツ1シャンテンの田渕に対し――

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鶴海には「さぁ、ソーズのホンイツにしてください!」と言わんばかりの好配牌が巡って来た。

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役牌のz2を暗刻にし、

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s2とする。s1は2枚切れているため、s1 s4受けを残すs8z1のトイツ落としよりも、打点効率を意識した方が良さそうだ。なにより親はライバルの田渕。ここで親かぶりできたら、相当有利に試合を運べる。

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そしてs5をポン! ホンイツ・トイトイ・z2・赤、跳満確定のテンパイ。ツモれば三暗刻がついて倍満にもなる。

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この手に飛び込んだのは、またしても丸山。3巡目にz5を捨て、s2 s3と手出ししている西家に対し、z1のトイツ落としをして――

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いったい誰が12000点と申告されると思うだろうか?

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続いて南3局、ここまで手が全く入らなかった都美がp9を暗カン。新ドラはm5となり――

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たちまち2翻アップのm5rを携え、丸山がカンm4待ちのリーチを敢行!

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続いて都美もリーチ! リーチ・ドラ1、ツモれば三暗刻つきのm2 m8シャンポン待ちだ。

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この鉄火場を制したのは、m7のポンでタンヤオ・ドラ1・赤2のテンパイを果たした田渕だった。

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リーチ棒2本を合わせて、計10000点の収入。これが決定打となり、1回戦トップは田渕となった。

1回戦終了時
鶴海と田渕のポイント差は、52.8ポイント。順位点ウマが10・20のオカありルールなので、田渕とトップラスを決めれば条件クリア。トップ・3着も素点で2800点の差がついていればいいので、自然と条件を満たしそうだ。

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2回戦も鶴海は攻勢だ。ドラ2のテンパイを果たし、カンm6待ちでリーチをかけた。m7z1のシャンポンにも取ることができるが、m7はすでに2枚切れ。しかも3者の河を見る限り、m6を持っているようにはとても見えない。
「丸山さんや百恵ちゃんの捨牌は変則的にも見えるところがあって、行方の分からない(手にしまってあるかもしれない)2枚のz1にアガリを求めるよりは、ほぼ2枚が山にいるであろうカンm6に賭けました」


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そのm6は、田渕のもとへ。もちろんトップ目の彼女は、おいそれとこれを切らない。

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そして都美が追いついてリーチ! 宣言牌はz1だが、むろん鶴海はこれで後悔するそぶりを見せない。

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m6がツモれないことが不思議で不思議でしょうがなかったです。なんでだろう? なんでだろう? って毎巡思ってました(笑)」

たしかにm6は山にいた。だが、そのm6は鶴海のもとを訪れなかった。代わりに、これ見よがしに1枚しか残っていないz1を持ってきてしまうというのも、なんとも皮肉な話だ。

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さらに次巡、都美のアタリ牌であるs9をつかみ――

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3900の失点をした。

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続いて東2局、都美がドラのz6、そして

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z1をポンして、m6 m9待ちのテンパイを入れた。

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これに鶴海が飛び込んでしまう。親番、まだ中盤の巡目でワンチャンスのm9切りを選択。めいいっぱいに受ける選択でもあったのだが、あまりに手痛い8000点の損失となった。

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徐々に追い詰められていく鶴海。だが、チャンスはまだまだ巡って来る。東3局には、ドラ3・赤1というビッグチャンス到来。

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4巡目、めいいっぱいに受けるならz5切りだが、ペンm3のターツを払っていく。z5・ホンイツ・ドラ3など、仕掛けても跳満が見える手だ。ならば重なってうれしいz5を残しておく。

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m1m2と落としている間に、さらにソーズが伸びる。こうなると、もはやp5rも不要か?

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いやいや、p5rからの横伸びでも打点が十分すぎる。p4 p6を引けば、ピンフ・イーペーコー・ドラ3・赤1、ヤミテンでも跳満確定なのだ。それに、鶴海の河は1打目にz3が切られ、その後も端牌ばかり。ペンm3のターツを払っていることで、より良形のターツがありそうというくらいで、ここまで高打点の手が入っているとは見えない。ソーズのチンイツまで持っていくとしても、p5rをギリギリまで引っ張った方が、目立たず進行できそうだ。

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ここで田渕がリーチ! しかも待ちは、鶴海が使いきれるs4 s7だ。入り目次第では、トータルトップの田渕から直撃を狙えるかもしれない。

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このリーチに対し、鶴海はs1をチーして、p5rを勝負! ソーズの受け入れを伸ばし、田渕と真っ向勝負を挑む!

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そして田渕の河に、s6が捨てられた。これをチーしてs4s8を切ればテンパイを取れるが――

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もちろん、鶴海はs8切りを選択。チンイツ・ドラ3、倍満のカンs5待ちで田渕に追いついた。

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だが、この直後に田渕がs7をツモ! 500-1000のアガリで、鶴海のチャンス手は潰されてしまった。

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それでも、まだまだ鶴海に手が入り続ける。東4局1本場では、なんと配牌で三暗刻というなんたら映えしそうなシーンまでお目見えした。

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z2 z6と処理しているだけで、あっという間にテンパイ! 三暗刻にはならないが、ドラがm6であるがゆえに、高めをツモれば満貫の手。ならば、リーチ! 安目のm9は、状況的に見逃すという選択を取るかもしれない。だが――

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トータルトップの田渕から出た場合に限り、なんとも見逃しにくい!

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裏ドラが乗ることはなく、1300は1600のアガリ。大きな加点とはならなかったが、まだ親番も残っている。わずかに田渕との差を詰めて、後半戦へ望みをつなぐ。

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南1局、都美がさらなる加点をする。タンヤオ・三色・赤2のカンm5待ちで、丸山から8000点を奪い取る。これで都美は、田渕まで12ポイント差と迫った。

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鶴海も負けてはいない。最後の親番でz5・ホンイツの5800点を丸山から出アガった。これで鶴海はこの半荘3着目に浮上。この親番で都美をまくることさえできれば、晴れてプレーオフ1st通過だ。

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運命の南2局1本場、先制テンパイを入れたのは鶴海だった。z1をポンし、打s3z1z6・赤1、7700点のテンパイを入れた。s3を残してテンパイを取らず、ホンイツに渡る手もあったかもしれないが、鶴海はそれを選ばなかった。

「テンパイを取りはしましたけど、最初はトイトイにするつもりで、ホンイツまでは考えなかったです」

7700点でも打点十分だし、さらなる高打点へのルートが断たれたわけでもない。それゆえの判断だった。

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そこに田渕がドラ1・赤1のカンm3待ちのリーチで応戦!

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中盤に差し掛かり、鶴海が望んだトイトイ変化となるm6がやってきた――。

「リーチが入り、巡目も深くなっても、シャンポンへの待ち変えに関してはかなり考えました。だけど先制リーチが入っていること、そして百恵ちゃんが2s切りリーチをしているのが気になって、リャンメンに受けてしまいました。アガリ連荘なので、親番が終わったらほぼノーチャンスなので」

田渕の宣言牌であるs2がくっつき候補として残されているとは考えにくく、関連牌だと仮定できる。すると考えられるパターンは、s1s1s2s1s1s1s2s2s2s3s2s4s4のいずれかとなる。s2s3s3s3がすでに3枚見えているため否定され、s1s2s2s2s2s4から打ち出された場合はs3でアガれているはずなので、これも違う。もし、田渕の手の内にs4がトイツだったら、鶴海のこのチャンス手はほぼ空砲と化してしまう。ならば――

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m4 m7待ち続行! 極めてセオリーに忠実な選択で、こちらの方がアガリ率の方が高いのは間違いない。ところがm4 m7は、じつはこの時点でm7が1枚山に残っているのみだった――

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ここで、またしても安牌が尽きてしまった丸山からm3がこぼれ、田渕の5200は5500のアガリ。左上の河を見てほしい。もしも鶴海がトイトイに受けていたならば、田渕のm6を捉えて12000点をアガれていたのである。悲しいほどに裏目を引き続き、ついに鶴海の泳ぎは止まってしまった――

対局終了時
都美の猛追をかわしきり、田渕がプレーオフ2ndへと進出。2戦目をトップで終え、ただ一度の放銃もなかったのに敗れた都美。スタートと同時に12000点を失い、最後までその枷に苦しめ続けられた丸山。そして、極上の配牌を何度も手に入れながら、弄ばれるように裏目を引き続けた鶴海。彼女たちのシンデレラストーリーは、ここで途絶えた。

「シンデレラリーグに出場して、いろんな方に麻雀を見てもらえてよかったです。声をかけてもらえる機会も増えました。これからも、麻雀が楽しく打てる日々が少しでも続くよう、スキルを磨いて健やかに過ごそうと思います」

今回は対岸まで泳ぎきることはできなかった。けれど心のストレッチは、すでに準備万端だ。スタート台に立ち、次に「Take your mark」と呼ばれるその日まで――


文:新井等(スリアロ九号機)

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