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松嶋
麻雀ファンになって日が浅い方からしてみたら、それは新鮮に映ったかもしれない。「京大式小型肉食獣」松嶋桃が、麻雀プロとして卓に座る姿を見るのは――。

近年の松嶋は、麻雀対局番組の実況者として活動する機会が飛躍的に増えた。AbemaTVでは「RTDリーグ」や「Mリーグ」、麻雀スリアロチャンネルでも「麻雀の鉄人シリーズ」の実況といえば松嶋だ。メディア露出は麻雀関連に留まらず、京大法学部卒の知識を生かして地上波のクイズ番組にも多数出演している。その多彩な活躍ぶりは、麻雀界でも屈指と言っていい。

その一方で、対局機会が激減したともいう。以前は麻雀店へのゲスト活動や、あらゆる対局番組への出演など、プレイヤーとしての活躍にも目を見張るものがあった。それが今や多方面での仕事が増えたことで、ピーク時の4分の1以下の対局数に。僕のような凡庸な人間は、1週間も牌に触れなくなっただけですぐに卓に入りこめなくなってしまう。ブランクによる衰えもあるのではないかと危惧したのだが、松嶋曰く、むしろ以前より研ぎ澄まされているような感覚になっているという。

「以前とは序盤の手組からして全然違いますね。一番変わったきっかけは、RTDリーグの実況をしたことですね。現場で生の空気を感じて、横にトッププロの人がいて、一緒にお話しを聞いたり麻雀を見ていると、なんか見ているものがいままで私がやっていた麻雀と全然違ったんですよね。すると、知らない間にその方たちの考えにすり変わっていた。RTDは1回6半荘分の収録をするんです。収録自体は月に2回くらいなんですけど、その時の密度が半端なくて。あとは実況をどうにかうまくならなきゃって思った結果、麻雀をめちゃくちゃ見るようになって。他にも実況をする機会はたくさんありましたけど、そこで劇的に環境が変わりました。

今までのプロ生活はむしろ打つばかりで、自分の打ち方でどのくらいまで勝てるかみたいな感じでやっていました。なので、打ち方を変える きっかけがなかったんですね。お仕事が多すぎて、本数は段違いにそれまでの方が多かったですけど、中身は去年1年の方が充実していたなって。インプットの時間がむちゃくちゃ増えて、アウトプットを抑えていたのが良かったのかもしれないですね。周りの方から『打ち方がすごく変わったね』ってよく言われるんですけど、私はスタイルを変えようとして変えたわ けじゃなくて。前からこうじゃなかったっけ? くらいで。ちなみに、前はどんな打ち方してたっけと思って過去の対局をよく見たら、うえーってなりました(笑)」

名門大学出身の松嶋らしさが垣間見える転機を経て、彼女はモデルチェンジに成功した。攻撃重視の肉食獣麻雀から、トッププロのエッセンスをふんだんに取り入れた柔軟なプレイヤーに。トップ女流雀士の祭典「麻雀ウォッチ プリンセスリーグ」の予選第1節Aブロック2卓。そこで早速その真価が発揮された――。

システム
対局者
この日は松嶋が所属する日本プロ麻雀協会の先輩にあたる上田と朝倉、そして最高位戦から野添が登場。朝倉は通算4度の女流雀王戴冠に始まり、数多くのビッグタイトルを獲得。言わずと知れた女流トッププレイヤーだ。上田はノンタイトルながら、豊富な経験と知識を生かしたオールラウンダー。野添も守備に重きを置いた雀風で、決して大崩れすることはなさそうな安定感が見える強者だ。昨年の隙のない打ち回しを見た身からすると、朝倉と野添がキーパーソンになりそうだと予想を立てていた。

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1回戦東1局、先制攻撃を決めたのは、キーパーソンの一人である朝倉だった。ダブz1のポンから――

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赤1を含んだs2 s5のテンパイを早々に果たす。

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上田がタンヤオ・赤・ドラのチーテンで応戦したが――

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同じくドラ2内蔵のチャンス手である野添からこぼれたs2が朝倉に刺さる。

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5800点のアガリで朝倉が一歩リード。とはいえ、まだまだ決定打ではない。

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次局、先ほど放銃を許した野添の配牌は、なんと3メンツ1雀頭が確定している! これはさすがに反撃開始か!? などと思っていたら――

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先制テンパイは朝倉だった! 役がなければ赤牌もドラのp8もない愚形待ち故にリーチとはせず、ひとまずテンパイはキープしつつさらなる変化を見る。

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その2巡後、m2を持ってきた朝倉の手が止まった。ここで朝倉が選んだのは――

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p6だった。一時的に雀頭がなくなってしまうが、m1m1m1m2の形が強く、すぐにでも復活しそうだ。p6を1枚生かしておけばマンズ回りとp6回りの横伸びが期待できるし、123の三色や、チャンタなどへの変化も見込める。

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その後、s5rm5rと赤牌を立て続けに引き、これならば打点十分と手役に固執することなくm2を切り飛ばす。

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そしてカンs6待ちでリーチ! ファーストテンパイから、じつに2ハンも打点がアップしている。

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このリーチを受けた野添はp7を切ってタンヤオのみ、現物のm7待ちのテンパイを入れた。p7は無筋ではあるものの、1段目に朝倉がp6のトイツ落としをしていたことを考えると、相当通りやすそうだ。そして松嶋と上田が降り気味なのだが、2人ともm7を合わせていない。すなわち――

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m7は山にいる!

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朝倉から1300は1600+リーチ棒1本を取り返し、野添が先ほどの借りを返した。

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朝倉と野添の一進一退の攻防。そこに割って入ったのが松嶋だった。東3局、ドラs6。松嶋は親番でz5をポンし、打s2とする。早くもz5・赤・ドラの1シャンテンだ。

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ここでm9がアンコとなる。ドラターツは払いにくく、リャンカンターツの優劣もつけにくいが――

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松嶋は打p3とする。注目ポイントは、朝倉が1巡目に切っているp1だ。序盤の一九牌は、そのスジ牌を軸としているケースが比較的多い。p1 p4と持っていた場合、p4だけ持っていればp2p3を持ってきてもフォローが効くからだ。その優劣からp3を選び出し、なおかつソーズ、とくにドラのs6が縦に重なった場合のダイレクトテンパイを逃さない選択とした。また、このカンp6固定は他家の盲点となりやすいため、出アガリ率がアップするというメリットもある。

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結果はp5を重ねてのカンs5待ちとなったが、松嶋の実戦的な思考の数々が垣間見えたシーンだった。

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そんな松嶋の仕掛けに対し、野添がリーチ・ピンフ・赤のm3 m6待ちで応戦!

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このリーチの一発目、松嶋は悩んだ後に無筋のm8を勝負した。

「ドラ表示牌にs5rも見えていたし、どうかなぁ、どこまで行くのかなぁと思ったんですけど、私の待ち牌は野添さんの中スジという利点がある。それに、そこまでも全然高い打点が出ていなくて1半荘目ということもあり、今日は気持ち強めに押していこうと思っていました」

どこまで行くのか、どこで退くのか。じつに判断が悩ましい局面ではあるが、そのひと押しが――

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上田の放銃を誘った。

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これまでの松嶋は、効率に重きを置いた平面的な打ち方が多かったように思う。この7700点のアガリは、ニュースタイルの彼女がたぐり寄せた結果だったのではないか。

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そして南2局1本場、松嶋が決定打を見舞う。7巡目にタンヤオ・赤・ドラのヤミテンを入れる松嶋。ひとまずm8としているが、より良い待ちへと変化しそうな局面だ。ノベタンや亜リャンメン、4巡目にs7を切っていることや場況を鑑みて、s8単騎なども面白そうだ。

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この時、朝倉はp6とマンズ回りのくっつきテンパイという状況。m5rを切ることはまずないため、m8が今にもこぼれそうだ。松嶋が待ち変えをするか、朝倉がマンズを引いてテンパイしない限り、ここは松嶋のアガリで終わりそうだ。

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そして2段目も終わろうかというところで、s2 s5待ちのノベタンへとようやく変化。こうなると、かえって決着が長引くのかと思われたが――

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このタイミングで、朝倉がまさかのs2引き! s1 s5 s6と捨てている身でs2を残せるわけもなく――

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無念そうな表情で朝倉がs2をツモ切りした。

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5200点を2着目の朝倉から直取りしたことで、1回戦は勝負あり!

1回戦終了時

1回戦の最高打点は、松嶋の7700点。一度も満貫以上のアガリが発生しないというヒリつく展開で、2回戦を迎えることとなった。

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2回戦東1局、松嶋の手牌はカンチャンや二度受けがあるものの、うまくいけばメンタンピンへと育てられそうな気配だ。浮いているのはs3だが――

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ここではp4ツモ切りとする。234と678、両方の三色を見据えた格好だ。松嶋の肉食獣的な貪欲さが伺える。

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m1を引いたことでマンズがリャンカン形になったところで、打s3とする。234よりも678の方が成就しやすいと見て選んだのだろう。p4を切ったシーンでs8を切っての雀頭固定をしていると、一気に高打点へのルートが狭まっていた。p4切りは、マンズ変化も見据えた一打だったというわけだ。

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局面が大きく動いたのは、7巡目。上田が切ったs3を、朝倉がs1 s2でチーをした。ドラのz7がアンコだ。普段は門前で高打点に仕上げることが多い朝倉のこの仕掛けは、他家からも脅威に感じることだろう。

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故に松嶋は、タンヤオのみのヤミテンに構える。ソーズが場に高く、河を見る限り朝倉が抱えていてもおかしくなさそうなs7だ。この待ちでめくり合いを挑むのは得策ではないとの判断だろう。

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上田がタンヤオ・赤2の勝負手でs7を勝負したが――

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松嶋が見事にそれを捉えた。上田がリーチに備えてz5を抱えていたことから、松嶋がヤミテンでなければ別の結末を迎えていた可能性は十分にある。

その1.mov_007099058
1回戦に引き続き好調の松嶋。続く東2局はチートイツの1シャンテンからm3切り。メンツ手の可能性をほぼ断ち切るような一打から、またしても高打点に仕上げようという意識が感じ取れる。

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松嶋と同じくチートイツの1シャンテンだった朝倉だが、このz6でメンツ手へとシフトチェンジ。ドラのm1を惜しむことなく切り捨てる。

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そして絶好のカンs2引き! z6・チャンタ・ドラの満貫を盤石のヤミテンに構える。

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その当たり牌の一つであるz7が松嶋のもとへやって来る。p7が重なった場合はさすがにドラのm1待ちとしそうなので、これは非常に危うい! などと思っていたら――

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今度はs9引き! 2種類ある朝倉の当たり牌をともにつかんでしまう。

その1.mov_007305831
s3を切ったものの、もはやこの局の松嶋は崖っぷちだ。だが、このままテンパイすることさえなければ、朝倉のチャンス手を封殺することになる。テンパイさえしなければ。そう思っている時に限って――

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残り1枚のドラを引いてしまうのも、また麻雀の魅力の一つなのだろう。

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この8000点のアガリで、ついに松嶋の快進撃がストップすることとなる。ならば、誰なのか?

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以前手が入り続ける松嶋のドラ待ちチートイツをかいくぐり、2戦目のトップをもぎ取る主役は――

上田
「惑わしのキャッツアイ」こと上田唯だった。

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彼女は松嶋と同じくドラのz5待ちチートイツで応戦すると――

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最終ツモで残り1枚のz5をたぐり寄せた。この日の初アガリとなる3000-6000を決め手として、上田は2戦目のトップに就いた。

2回戦終了時

14年というキャリアを誇る上田は、今ほどの麻雀ブームとなる前からこの業界を支えてきた立役者の一人だ。かつて、あの秋元康氏に楽曲提供をしてもらったこともあるほどの人気雀士でもある。しかしながら、これまで個人タイトルに恵まれることはなかった。決勝進出の経験は複数回あるものの、あと一歩で栄冠を逃してしまう。だが、それでも上田はプロの世界で研鑽を続け、チャンスを伺い続けた。

上田は近年の松嶋とは対照的に、とにかく実戦を通して腕を磨いた打ち手だ。彼女の勤務先の麻雀店では、赤ありのアガリ連荘ルールを採用している。それは奇しくも、プリンセスリーグと同じルールだ。親番での立ち居振る舞い、親リーチへの対応など、彼女はとにかくそれを実戦で学び続けた。そうして、彼女はプリンセスリーグの申し子というべき打ち手へと変貌を遂げた。インプットを繰り返した松嶋と、アウトプットに特化した上田。対照的な2人が1トップずつ飾るという展開で、後半戦の3回戦へと突入した。

3回戦は、3局連続の流局で始まる。溜まった供託棒は3本。アガリに3900点が加算される状況で、上田は親番を迎えた。

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誰よりも早くアガりたい。そんな局面で、上田は配牌時点で2メンツが完成していた。

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8巡目、上田は高めイーペーコーとなるピンフ・ドラ1のテンパイを果たしたが、ここではヤミテンを選択。フラットな状況ならまだしも、ここでは少しでもアガリ率を高め、着実に供託をものにしようという意志が感じられる。

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そして終盤にs9をツモ! 1300は1600オールに供託3本という大きな収入を得て、トップ目に躍り出る。

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続く東4局4本場、今度は松嶋にチャンス到来。タンピン・赤・ドラのs3 s6待ち。こちらも迷うそぶりもなくヤミテンに構えた。

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この局面で、朝倉はくっつきの1シャンテンという状況。くっつき候補はm5p4s2の3種類。しかしすでにs1が3枚見え。ならば切るのはs2だろう。

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そんな凡人の予想を易々と越えていくのが、麻雀界で数々の金字塔を打ち立てた朝倉ゆかりという雀士なのだ。

s2にくっついたら勝負になるかなと思って残しました」

たしかに全員が早々にソーズの下目を切っており、場況は非常に良い。4枚目のs1s2の縦重なり、s3引き、どれになっても強い受けになりそうだが、この読みを実行に移せる打ち手はなかなかいないのではないだろうか? そしてm5はドラ受けの可能性があるため、手元に残す。ならばp4を切るといったとこだろうか。この一打には、感嘆の声を上げずにはいられなかった。

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その意志のこもった一打はs3をたぐり寄せ――

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リーチを放った。

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無論、勝負手の松嶋もここから退くわけがない。ツモ切りリーチで追いかけた。

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この鉄火場だ。野添も――

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上田も共通安牌を切り飛ばしていく。そして――

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松嶋がs1をつかんだ。

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1600は2800のアガリ。打点以上に価値のあるアガリで、松嶋の勝負手は潰されてしまった。だが次局、再び松嶋にチャンスが押し寄せてきた。

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親番となる南1局、ドラはp2で赤が1枚。すでにソーズに2メンツがあり、満貫以上の手がスムーズに作れそうだ。すでに5ブロックあり、浮いている牌はm3s3だが、カンp6がネックと成り得ることを踏まえると、さらなる良形変化を求めたい牌姿でもある。

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松嶋はここでm3切りを選んだ。ソーズで2メンツを確定させるため、s3を切る人もいるかもしれない。自身でs5を3枚使っているため、受け入れ枚数はs3切りの方が多い。実際、以前の松嶋であればs3を切っていたであろうと自身で述懐していた。

「でもs3を残した場合の後のソーズの変化とか、m1を引いてのカンm2待ちの微妙さなどを考えて、m3切りを選びました。先日、多井(隆晴)さんと(鈴木)たろうさんと話す機会があったんですけど、ちょうどその時に複合形を残すことの重要性について話していたんですよ」

ここでも、インプットの繰り返しで得た知識が――

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松嶋に追い風を吹かせた。s1引きでソーズに多彩な変化が見込めるようになり――

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p5とする。p8引きでp6 p9のターツと他のターツを選べるようになるし、ドラ故に簡単に出ることはないとはいえ、m6m9が先に埋まってのs2 s5 p2待ちになった場合のp2の出アガリ率がわずかとはいえ上昇する。無論、2スジにかかるp5の方が危険なので、狙い通りに事が運んだとはいえ、p7を先に切ったりはしない。

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次巡にはs1引き。これでs1のぶん受け入れが増えたし、s2でイーペーコーもつくようになった。そして――

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うれしすぎるs2引き! イーペーコー・赤1・ドラ2の親満テンパイ。慎重にヤミテンとする。

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ここで野添からリーチが入る。自身からm3が3枚見えていたこともあり、m2z5のシャンポン受けとした。先ほど朝倉とのリーチ合戦に敗れた時を思い起こすような展開だが――

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今度の松嶋はヤミテン続行とした。

「ここからの手変わりはp2キャッチくらいしかないんですけど、親込みの2軒リーチと子だけの1軒リーチだと、他の2人 の押し具合が違うと思うんですよ。私がリーチをするとベタオリになってしまうけど、子だけのリーチという状況であれば、「m9くらいは!」と勝負をする人がいてもおかしくない。ヤミテンでも打点は十分だからというのもあり、ダマっていました」

松嶋、渾身のステルス! その結果――

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望外のp2引き! イーペーコー・赤1・ドラ3。こうなると――

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リーチをかけて18000点を確定させた! そして――

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その直後に野添がm9をつかんだ!

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一発に加えて裏も1枚乗り、雷鳴でも轟きそうな24000点のアガリを炸裂させた。この手順、このタイミングでリーチをかけたからこそ生まれた倍満だった。

たった一度のアガリで、一気にトップ目へと駆け上がった松嶋。だが、ここで伏兵が登場する。

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立ちはだかったのは、2戦目トップの上田だった。南2局、画像左上のテロップでは松嶋となっているが、実際は野添の親番だ。自風のz3でポンテンを取ると――

 

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サクッと待ち牌のm3がスジにかかるように、打m6とした。狙い通り――

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その直後に松嶋がm3を河に置いた。

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z3のみの1000点ではあるが、野添にしっかりラス目を押しつけようという意図が感じられる。

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続く南3局も、上田としては早く終わらせたい場面だ。2着争いをしている朝倉に連荘は極力許したくはなく、オーラスの親番さえあれば松嶋をまくる可能性は作り出せる。ここではカンs7をチーして――

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p9とする。タンヤオと三暗刻という珍しい両天秤だ。

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次巡にp6を引いてすぐにテンパイを入れる。

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さらにp6を引いてシャンポン待ちへと変化。河を見てもらえればわかるように、他家は全員変則手気味だ。高打点のアガリを成就される前に、さっさとアガりきってしまいたい。

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今度はm4引き。ここでリャンメン受けとして勝負! この時の他家は――

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松嶋がチートイツ・ドラ2の1シャンテン、

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野添はマンズのホンイツ、

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朝倉はドラ2の789三色という状況だった。それぞれの勝負手を――

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上田は1000点で蹴り飛ばす。3名とも歯噛みするような思いだったことだろう。

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オーラスでは5200直撃か満貫ツモで着順アップという朝倉が、z5p1をポン。条件を満たしつつある中で放たれたs4をとらえ――

 

その3.mov_004555584

メンピン・赤・ドラの12000点をアガった上田。松嶋に猛追したが、反撃はここまで。しかし終盤に見事な追い上げを見せて、3連続アガリで大きく素点を稼いでみせた。

3回戦終了時

3回戦終了時点で、前半卓で第1節を打ち終えている瑞原明奈に、松嶋が1トップ分のところまで迫っていた。一方、上田も3位についている。そしていよいよ、この日の最終半荘が始まった――。

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東3局、ドラp6。野添に好機が訪れた。z1の一鳴きで、瞬く間に満貫の1シャンテンに。

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あっさりとp5を引き、z5単騎に構えた。画像ではわかりにくいが、わざわざ牌を並べ直して左端にz2z5と置き、右2牌にp3p4を置いていた。p3p4が鳴けた場合、並び方で単騎待ちであることを気取られないようにし、1枚切れのz5単騎にしようと早い段階で決めていたのだろう。

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この手に対し、松嶋も本手で応戦! タンヤオ・イーペーコが完成し――

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s3を切ってリーチとした。自身の目からs2が3枚、s5が2枚見えている。だが、ここでは最高打点を目指した肉食獣モードのスイッチを入れた。ここで、もしヤミテンを選択していたならば、どんな結果に終わっていたのだろうか?

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朝倉の手に浮いているs5rは、仕掛けている野添の現物だ。もしかしたら、切られていたかもしれない。そして――

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松嶋が次巡に手にしたのはz5だった――。

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松嶋にとっては痛恨の8000点放銃だ。
「リーチかヤミテンか悩んだんですけど、ここまではリーチしてきた局面も多かったので、一貫しようと思ってリーチに踏み切りました。z5をつかんだのは結果論であって、それよりもダマの選択肢も浮かんだ自分は、やっぱりちょっと変わったんだなと思いました」

ともあれ、たった一度の分岐点によって勝負の趨勢が変化していくことはよくある。ましてや、それが熟練者同士の対局であるなら、なおさらだ。

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東4局、上田はメンピン・ドラ1のこの手を朝倉から一発でアガり、裏も2枚乗せて18000点の加点。三つ巴だったトップ争いから、大きく抜け出すことに成功する。そして3回戦同様、かわし手で次々と局消化をすることに成功。他家に浮上の機会を与えない完璧なゲームメイク。アウトプットを繰り返すことによって培われた上田の勝負勘は、時間が経つごとに研ぎ澄まされていくように感じた。

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オーラスにはその鋭敏な感覚は極限にまで達する。10巡目にピンフのテンパイを果たすと、猛然とリーチ! リーチ棒を出したことで、野添に満貫をツモられるとトップから陥落してしまうというリスクはある。だが、それを補って余りあるメリットがこのリーチにはある。早々にs5rを切っている野添は、条件を満たすために跳満以上の手を強引に作ろうとしているようにも見える。縦長の点棒状況のため、野添もじっくりと手を作ろうとしているはずだ。本線はマンズのホンイツか。ならば、まだテンパイまで時間がかかる可能性はある。そして野添以外の他家に放銃を許したとしても、着落ちのリスクは非常に低い。極めつけは、このリーチの待ち牌だ。序盤にm2を2枚も並べており、m1は2枚見え。このリーチに対して――

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m1を止めるのは至難の業だ。

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リーチ・ピンフ・一発で5800点の加点。トップを盤石なものとしつつ、素点をさらに稼いでみせた。

4回戦終了時
次局も上田はいわゆる「王様リーチ」をかけたが、今度は野添の1100-2100のアガリに阻まれたところでゲーム終了。さらなる加点こそならなかったものの、上田が見事に卓内トップを飾る結果となった。

「まだ8半荘あるので、どうなるかわりませんが、失点を押さえつつアガリ逃しをしないように、一打一打を丁寧に打っていきたいです」

そう上田が淡々と語ったかと思えば、1戦目と3戦目でトップの奪取に成功した松嶋は「今日、メッチャ楽しかったです。打つ本数が減った分、1回1回が楽しくて。負けている時でさえ楽しいと感じられたので。あんまり追い込まれることなく打てたから、次も行けると思います」と、次節への明るい展望を述べた。

実戦の積み重ねでスキルアップに成功した上田と、徹底したインプット作業で大幅なモデルチェンジに成功した松嶋。2人の王女候補は、全く別の「花嫁修業」を経てこの舞台で結果を残してみせた。その過程は違えど、目指す高みは共に同じ。王女の名を冠する頂きに立つために、両者が次に雌雄を決する時が今から楽しみでならない。

文:新井等(スリアロ九号機)

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