それは、あまりに切ない203秒の葛藤だった【麻雀ウォッチ プリンセスリーグ2019 予選第3節Bブロック2卓】
それは、あまりに息が詰まる、残酷とも言えるような時間だった――
「麻雀ウォッチ プリンセスリーグ2019」予選第3節Bブロック2卓、この日でBブロックの勝者と敗者が決まる。王女候補たちが、また姿を消す運命の一日だ。
対局者は、この4名。2位の小宮は、大負けをしない限り準決勝進出が確定する。最悪でもプレーオフ進出ということで、4位の佐月、5位の安達、6位の冨本に焦点が当たることが多かった。
「鳴きテロリスト」佐月麻理子は、引き出しの多さに定評のある選手だ。多彩な仕掛けはもちろんのこと、状況に応じて独創的な判断を見せることがじつに多い。何が飛び出すかわからないということから、以前は「乙姫の玉手箱」なんていうキャッチフレーズもついていたほどだ。そんな彼女の真価が、1回戦から発揮された。
1回戦オーラス、小宮と6600点差の2着の佐月は、イッツー・ドラ1の手でヤミテンに構えた。リーチをかければどこからでも出アガれるが、トータルポイントで競っている佐月にトップを取られるくらいならという思考から、安達と冨本はおいそれとは振り込んでくれなそうだ。そのため、ここでは直撃とツモに焦点を絞った。
「対局前から、水口さんとの104.2ポイント差のことだけをずっと見ていました。うまく小宮さんもまくれたらラッキーだけど、現実う的なラインを。104.2ポイントをまくるにはトップが2回必要だなと思っていて、トップが見れる時は多少無理してでもトップを狙おうと思いました」
プレーオフ2ndに進める3位と、プレーオフ1stからの対局となる4位とでは、単純計算で準決勝進出率が4倍も違う。それを重々承知している佐月が、ファインプレーでトップをたぐり寄せたのだった。
「鳳凰の花嫁」冨本智美は、ラスを引いたことでトータル8位にまで落ち込んでしまった。
「対局前に狙っていた現実的なラインは4位ですが、けっこう3位も狙えると思っていました。なんなら2位もあるんじゃないのって。守りすぎたり押しすぎたり、ポイントを持っている人の麻雀って難しいので」
現・雀竜位の矢島亨を師事する冨本は、彼同様に多彩な駆け引きを使う打ち手だ。苦戦はしているが、まだまだ目は残されている。こんな局面でこそ、冨本の持ち味は輝きを放つ。
正念場の2回戦、南場の親が落ちた時点でラス目ではあったが、南2局に・トイトイの1600-3200をアガり――
次局にはリーチ・一発・ピンフ・ツモで1300-2600の加点に成功する。
そしてオーラス、ほぼ横並びの僅差という状況で、冨本が引き出しの一つを開けた。リーチのみの単騎待ち。ツモ裏でトップとなるが、出アガリでは一発・ハイテイ・裏ドラなどの偶然役が2つ以上絡まないと逆転には至らない。また、すでに
を仕掛けてテンパイ濃厚の安達に対するけん制効果も大きい。とにかく、小宮以外にトップを取らせたくない局面なのだ。
だが、ここでは安達の意地が上回った。渾身の300-500をツモり、トップを死守した。
プレーオフのボーダーからまた一方後退してしまった冨本だが、続く3回戦はそのビハインドを取り返すような姿がとかく印象的だった。
きっちりとツモりあげてみせた。2700オールの大きな加点でさらにポイント差を縮め――
オーラスにはわずか3巡で・チャンタ・ドラ3の凶悪なテンパイを入れた。さらに――
躊躇することなくをツモ切った。他家からの警戒度が跳ね上がること、親の佐月からまくられる可能性を引き上げてしまうことをリスクと考え、ここは気配を殺すことに専念した。
残るはあと1戦。最終戦は、全員に十分に現実的な可能性が残ることとなった。
そんな混戦を抜け出したのは、安達だった。ドラ2の待ちをヤミテンに構えてから
をアンコにし、ドラを叩き切って
待ちの5メンチャンリーチに踏み切った。
冨本もをポンして
待ちのチャンス手だったが、
をつかんで7700点を失ってしまう。
安達の攻勢は、なおも続く。受け入れ十分の1シャンテンからをツモ切ってテンパイ拒否!
結果、をアンコにして
待ちのノベタンリーチをかけた。ピンフはつかなかったが、いかにも山に
が眠っていそうな場況だ。
感触十分のこの手をツモると、なんと裏3! 6100オールのアガリで、一気に佐月のトータルポイントを上回ってみせた。
南3局2本場、佐月の最後の親番。メンホンチートイの1シャンテンだが、安達が切ったに手が止まる。アガリ連荘のルールということもあり、これを仕掛けるかどうかは分水嶺となりそうだ。そしてチーした後の打牌選択も悩ましい。
のトイツ落としか、
を払うか、
を払うか。
佐月はを選んだ。
を仕掛けた場合もイッツーやドラ引きの可能性が残るため、満貫になりやすいルートを選んだというわけだ。だが――
これで、残るはオーラスのみ。現状、勝ち上がりが決まっているのは小宮と安達だ。冨本は親番なので、条件クリアまでアガリ続けるしかない。先に述べたようにアガリ連荘のため、テンパイ流局には価値がない状況だ。
そして佐月の条件だが、安達が▲30.5ポイント、佐月が▲79.3ポイントで、その差は48.8ポイント。佐月が2着に浮上すると30ポイント加算されるため、素点で18800点をまくればいいということになる。この条件を満たすのは安達から跳満以上を直撃するか、倍満以上をツモるか、他家から三倍満以上をアガるしかない。小宮や安達からの出アガリは、ほぼ期待できないだろう。降りることがまずない冨本からならば出アガれるかもしれないが、三倍満などそう簡単に作れるはずもない。などと思っていたら――
終盤に、佐月にメンチンのテンパイが入った。を切れば、ペン
待ちとなる。リーチをかけてツモれば条件を満たすが、小宮や安達がピンズを打つことは、もはやないだろう。はたして、この待ちと心中していいものか。巡目は残り少ないものの、手変わりの可能性も十分にある。そして、もう一つ――
「プロとしてありえないんですけど、条件を勘違いしていました。計算ミスをして、三倍満ツモ条件だと思っていました」
故に――
勘違いなんて、誰にだってあることだ。それが、どんな強者であっても。それでも、彼女はこの選択を悔やみ続けるのだろう。直後――
佐月のもとにやってきたのは、勝ち名乗りを受けることになったかもしれないだった。
「きちんと倍満条件だと把握していたなら、かなりリーチ寄りの選択をしていたと思います。リーチ棒を出して流局になった場合の5位のポイント状況? 5位のワイルドカードでプレーオフに進むことは、考えていなかったですね。残るCブロックの3位と4位はトータルポイントがプラスで、5位の選手は▲40ポイントほど。だいたいCブロックの人にまくられてしまうだろうと考えていましたから」
ならば、佐月が取る道は一つしかない。
リンシャンからを持ってきた。手広い待ちを取るとして
切りの
待ち、
切りの
待ちの2択となりそうだ。
佐月は思考の海にもぐる。深く、深く。運命を覆し、人生を決するかもしれない一打の選択を。それは、あまりに息が詰まる、残酷とも言えるような時間だった。そして203秒の葛藤の果てに――
佐月の渾身のリーチは夢を叶えることなく、流局で決着となった。佐月が欲したは、ハイテイの安達の元へ巡ってきた――。
第11期女流雀王・冨本智美、第14期女流雀王・佐月麻理子。一握りの女流雀士しか手にすることができない称号を持つ彼女の力を持ってしても、プリンセスの頂きに至ることはできなかった。数多くのドラマをはらみつつ、王女決定戦の物語は、また一ページ、終幕へと近づいた。
文:新井等(スリアロ九号機)
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