心震わす熱すぎる戦い。小宮悠vs瑞原明奈【麻雀ウォッチ プリンセスリーグ2019 準決勝A卓】
RMU所属、「ロジカル・トランジスタ」小宮悠。プロキャリアは出場選手の中で最も浅く、わずかに4年。しかしながら小柄な体に秘めた高性能の思考を武器に、初年度は決勝進出の偉業を打ち立てている。
2年目の挑戦、小宮は準決勝の舞台で前半2戦を打ち終えた。瑞原明奈が2連続ラスで大きく沈み、大平亜季、上田唯と競っているポイント状況だ。決勝進出の条件は、上位2枠に残ること。小宮としては大平がこのまま抜けることよりも、上田の進撃を食い止めたい状況であった。
ゲームが大きく動いたのは東3局、トップ目の大平が高めリャンペーコーのリーチをかける。いや、正確にはが河に3枚、ドラ表示牌に1枚見えているため、リャンペーコー確定のペン待ちという奴だ。そのは……
上田の手牌にトイツで持たれていた。こちらも本手、イッツー・赤1のシャンポンリーチで応戦した。
2軒リーチに挟まれた瑞原は、をポンしており、役満・小四喜も見える手だ。を勝負したが――
これで上田が8000点のアガリ。これを皮切りに上田は東4局に8000、南1局に4000オールと加点を続け――
小宮が南場の親番を迎える頃には50000点オーバーの大台に達していた。こうなると、次に小宮が目指すべきは大平より上の着順でこの半荘を終えることになりそうだ。前局、小宮はかろうじてテンパイを維持して親権を死守したのだが、6巡目に瑞原から赤ドラ含みのリーチが入る。ピンズの連続形からの手変わりを見てテンパイ取らずとしていた瑞原だが、この引きで並びシャンポンのリーチを選択。を前巡にツモ切っていること、上田と小宮がピンズの下を早々に嫌っていることから、山に眠っているとみたか。
その通り、は山にいた。チートイツの1シャンテンの小宮だが、これはすでに自身が切っているだ。ドラ2で親番、これは放銃やむなしか――
が、こうなってはもはやお手上げだった。瑞原の読み通り、山に3枚眠っていたと。
5200は5800の放銃を許してしまう。この一撃で、小宮はラス目へと沈んでしまった。
とはいえ、2着目の大平との差は13000点。着アップの可能性は十分に残されている。などと思っていたら、上田からダメ押しのリーチが入った! 小宮も苦しいが――
ダブ・赤2の瑞原も苦しい。この3回戦、トップを取らなければほぼ敗退というポイント状況だ。打牌候補はどれも無スジ。
ここでは打とし、1シャンテンをキープ。その後をアンコにしてリーチをかけると――
をツモって三暗刻、さらに裏も3枚乗って8000オール! 瑞原が、たった一撃でトップ争いに躍り出る急展開となった。
大平が700-1300の一本場をツモって迎えたオーラス、小宮としては着順アップは望みにくい中、さらに大平からカン待ちのリーチが入った。
これを受けた小宮、ドラ2があるものの、まだまだ形が苦しい。をトイツ落としして、フルゼンツを拒否した構えだ。
「ドラ2だけど跳満ツモに仕上げるのはキツそう。ここはもう一局やってもらおうと思っていました」
小宮としては、瑞原が上田をまくってトップに立った方が、最終戦が楽に戦えそうだ。自身からドラが2枚見えているとはいえ赤アリルールとなると大平の打点の高低は読みにくいが、中打点以下であればもう一局増えてもさほど痛手にはならないだろう。
そんな小宮の意を汲むかのように、終盤に差し掛かったところで瑞原の手が整い始める。この1シャンテンにを引いたところで――
を切って678の三色にほぼ決め打った進行を取った。は大平がリーチした時点で2枚切れではあるが、宣言牌のスジとなると警戒レベルも高まる。その危険度も考慮に入れたのではないか。
大平がをカンして、新ドラは。瑞原の手にまだはないが、678の三色で使う牌だ。瑞原の手が、みるみるうちに化けていく。
終局間際、ついに瑞原がテンパイを果たした。でアガれば無条件でトップだが、では出アガリ、ツモともに一発・裏などの条件が必要となる。そしてとは大平の現物ということで、ヤミテンならば他家からの出アガリも期待できそうだ。
結果としてはヤミテンでもトップだった瑞原だったが、リーチをしたことで裏ドラが2枚乗り、メンタンピン・一発・三色・ドラ3の倍満にまでこの手は膨れ上がった。大平が倍満を放銃したということは――
3回戦は僅差で小宮が3着に浮上するという結末となった。上田が一歩抜けた状態で、大平、瑞原、小宮はトップさえ取れば無条件で決勝進出となった。2回戦終了時に2ラスだった瑞原が急浮上したことは、小宮としては想定外だっただろう。しかし箱下寸前に追いやられる展開だったことを思えば、この並びは決して悪くないようにも思える。
直後、大平もテンパイ! リーチ・赤で同じく 待ちだ。同じ待ちのめくり合い。凱歌は――
小宮にアガった。トップ取りルールで、あまりにも大きな4000オールでリードを得た。
次局、瑞原にもチャンスが。タンヤオ・ピンフ、ドラ3のチャンス手。大平と上田が直前にを切っており、ダマっていれば誰からでも出てきそうな待ちだ。その被害者は――
瑞原が8300を小宮から直撃したことで、勝負は再び混沌とし始める。
迎えた東2局は瑞原の親番、のポンでタンヤオ・赤2のテンパイ。二の矢としては十分すぎる打点だ。
が、瑞原はそれでは満足せず! 次局、ツモってきたをノータイムで加カン! 他家はみな門前だが、トップ取りが至上命題のこの局面において、5800から12000への打点上昇価値はあまりに大きい。新ドラのは乗らなかったが――
まさかの嶺上開花で4000オール成就! これで瑞原が単独トップ目へと躍り出た。
だが、小宮はまだまだ食らいつく。東4局1本場、ソーズ余らずのメンホンテンパイ、カン待ちだ。
これに飛び込んだのが大平。大平もピンズのチンイツ、あわや九連宝灯かという牌姿からを勝負し――
小宮と瑞原の、あまりに熾烈すぎるデッドヒート。その最大のクライマックスは、南2局に訪れた。小宮は赤2、ドラ1の1シャンテン。跳満まで見えるこの手、もしもツモれば瑞原に6000点の親かぶりをさせることもでき、トップを決める決定打となりかねない。
8巡目、小宮にテンパイが入った。直前に上田からリーチがかかっていたが、打点は十分。カン待ちで果敢に追いかける。
そんな渦中に大平も参戦。本来であれば手変わりを待ちたくなるような牌姿ではあるが、もはや悠長なことも言っていられない。ラス目の大平としては、他家の加点は即致命傷になってしまう。この半荘、そして準決勝A卓の雌雄を決しうる壮絶なめくり合い。その結末は――
「ロン」
アガリを宣言しているのは、上田だった。メンタンピン・イーペーコー・ドラの満貫。そう、上田は 待ちでリーチをかけていたのだった。この頭ハネで、小宮のアガリは露と消えた――。
この局面、今の幻のアガリにどれほどの価値があったのか、それは誰よりも小宮が理解していることだった。あと少し、ほんのわずかな加点で瑞原をまくることができるポイント状況だった。だが――
「今年は、去年よりいい麻雀が打てたかなと思うけど、まだまだ足りないところを強化していきたいですし、麻雀打ちとしても女流プロとしても成長したいです。その成長を応援してくれる人に見せられるようになりたいですね」
小宮悠の2年目の挑戦は、準決勝で潰えた。その小柄な体に宿した力と熱き思いは、次こそ大きな爪跡を残すに違いない。
文:新井等(スリアロ九号機)
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